第二話 あなたが私を作る

9/25
前へ
/57ページ
次へ
 2  翌日。桐杏はひとりぼっちの家で黙々と作業をこなしていた。役人が桐杏の家に来るのは食事を持ってくる時だけで、それまでの暮らしと比べて、人との関わりが極端に少ない。桐杏は久しぶりに新曲を作る気になっていた。音楽への情熱が今の桐杏の心を支える。  夜。桐杏が部屋の窓から満月を見つめていた時だった。 「女、寧丸さまが呼んでいる。ただちに来るのだ」  初対面の役人が家の開き戸を開けるやいなや、桐杏に命じる。もう自分の名前すらも呼ばれないのかと、桐杏は思う。役人の男は桐杏が武器を隠し持っていないか、簡易な身体検査をする。会ったばかりの男に体を触られることは、桐杏に屈辱をおぼえさせた。
/57ページ

最初のコメントを投稿しよう!

27人が本棚に入れています
本棚に追加