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「どうしたんだ? 何か困ったことでも?」
「莉久く……あ、大迫先生」
「なんだか揉めていたみたいだけど、大丈夫?」
そう言って、白衣を着た莉久が、私を庇うように、私と陽介の間に立ちはだかった。
「…………イシハラのMR? 彼女嫌がってるじゃないか」
「か、彼女は元同僚で、ここでたまたま会ったので話をしていただけです。
嫌がるようなことなんて何も……」
「同意なしに体に触っていたように見えたけど?」
「っ……先生には関係ありません。
これは俺たちの問題で。
彼女は俺の恋人なんです!」
「なっ……何言ってるの!?」
もうとっくの昔に別れているじゃない!
それなのに、何を現在進行形で!
しかもこんなに人通りの多いところで。
私は信じられない思いで、陽介を睨んだ。
「叶恋、そうなの?」
「とっくの昔に別れてるわよ。この人の浮気でね」
「なんだ、浮気? クズ男じゃん」
そうよ。クズ男、その通りよ!
「お、俺は……本当に悪かったと思ってる。それに――」
「陽介さん、悪いけどこれ以上時間は取れないの。
今日は会議があって、もう戻らないと」
「忙しい秘書さんの邪魔をするのは良くないと思うよ」
莉久くんはそう言って、私の肩に手を回し、陽介さんから庇うように連絡通路へ歩いていった。
「叶恋!」
後ろで何か言っているようだけど、通行証をタッチし、自動扉の向こう側へ行くと、陽介の声は聞こえなくなった。
「莉久くん、ごめんね。助けてくれてありがとう」
「いや、通りかかって良かったよ」
「まさか……こんなところで会うと思わなかったわ。
10月からここの担当に替わったんだって」
「それは……最悪だな。あいつにはここへ来ないようにうちの親に言ってもらおうか?
イシハラならなんとでもなるけど」
「いやっ、それはいいよ。申し訳ない」
大迫美容外科の院長にそんな個人的なことを頼めるわけがない。
それに、さすがにそれは陽介さんが気の毒だ。
「遠慮しなくていいんだよ」
「だ、大丈夫!」
エレベーターを待ちながら話していると、開いたエレベーターから、永真先生が飛び出してきた。
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