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「叶恋! 大丈夫か?」
私の肩をガシッと掴み、心配そうに問う永真先生。
「永真先生……? どうしたんですか?」
「たまたま医局にいたら、川崎が……叶恋が下で男に絡まれてるって――」
「菜々ちゃんが……」
菜々ちゃん、私が困ってるのに気づいてたんだ。
それで永真先生に……。
「大丈夫です。俺が助けましたから」
「お前……」
「大迫と言います。先月はローテで脳外にいました。
叶恋とは幼馴染なんですよ。
たまたま通りかかったら叶恋が困っていたので」
「そうか……悪かったな」
「いいえ? 俺にとって大事な幼馴染のことです。
汐宮先生に謝っていただくようなことではないと思いますけど」
「……っ」
「汐宮先生、同じ医局の先生とはいえ、勝手に女性の肩に手をかけるのはどうかと思います。
付き合ってるわけでもないんだし。
セクハラで訴えられますよ」
莉久くんは私の肩から永真先生の手を離し、私を隠すように永真先生の前に立ちはだかった。
「な……」
「そうだよな?
叶恋、この前食事に行った時、汐宮先生とは付き合ってないって言ってたよな?」
「り、莉久くん……!
それはその……たしかに言ったけど、今のをセクハラだなんて思ってないわ」
「付き合ってないのは事実じゃないか」
振り返りながら、「付き合ってない」を強調する。
どうしてここまで言うのだろう。
これを脳外の先生方に聞かれたら、偽装関係を装っている意味がなくなって大変だ。
「付き合ってる」
え?
「俺たちは付き合ってる。叶恋は俺のものだ」
「……っ!」
思いがけない永真先生の言葉に、恥ずかしさと少しの嬉しさを感じ、一気に頬が火照るのを感じた。
「プッ……独占欲むき出しって……クックック……。
おかしいですね。叶恋からはそんなふうに聞いてないんですが。
……まあいいや。叶恋、あのクズ男のことで困ったことがあったらいつでも言って。俺が何とかするから」
「え、あ、うん……ありがとう」
「じゃあ、俺は外来に戻るよ。……失礼します」
なぜだかニヤニヤと笑いながら、莉久くんは通りすがりに永真先生に何かを言って去っていった。
永真先生は目を見開いて少し驚いた顔をしながら、去っていく莉久の後ろ姿を不思議そうに見た。
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