つむじを押したら見えるもの

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「頑張ってるなあ」  そうっと部屋に入ってすぐ、つい声が出てしまった。弟の悠希(ゆうき)は、見ていて清々しく感じるほど背筋を伸ばして、参考書に目を落としている。すぐにふにゃっと猫背になってしまう私と違って、体幹が強くて姿勢がいい。見ているとこちらまで清々しい気持ちになる。  数秒遅れてから、私の言葉に気づいたように、悠希が振り返って少し驚いたように私を見た。 「びっくりした。(うめ)ちゃん、帰ってきてたの」 「うん。お母さんのご飯、食べたくて」  どさりと悠希のベッドに寝転んで大の字になる。 「疲れたー」  六歳年下のこの弟と一緒にいると、リラックスしまくって力が抜けてしまう。 「はいはい。おつかれさま」  悠希はすぐに前を向いて、勉強しているそのままの姿勢で笑う。ふわふわの髪の毛も笑っているように揺れるのを眺めて、つい私も微笑んでしまう。  弟は二浪目の秋を迎えている。私も変わり者だと言われているけれど、悠希も相当変わっている。高校三年の夏にいきなり、文系から理系に大学の志望学部を変えたのだ。  理系から文系志望にかえる、ブン転はたまに聞くけれど、リ転なんてやる人、聞いたことがない。そりゃ二浪もするだろう。けれど悠希は着々と勉強して、志望大学の合格水準に近づいているらしい。数三とか最初からこつこつやるとかすごすぎる。 「そういや、なんで悠希って理系になったんだっけ」 「えー。前もそうやって聞いてきたから説明したのに、途中で面倒くさくなったって聞くのやめたの覚えてる? たぶん今説明してもまた飽きて聞かなくなるよ」  悠希は振り返って呆れたように苦笑した。 「あー、そうだったかも」    その髪型と同様、空気をたっぷり含んだような笑みは、見ている私の呼吸を楽にしてくれる作用がある。  この子は生まれた時からこうだった。赤ん坊なんて出てこなければいいのに、って真剣に祈っていたくらいだったのに、お母さんがこの子を連れてかえってきて、ほら梅ちゃんの弟だよって見せられた瞬間、やられたって思った。

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