不死の僕と天使

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不死の僕と天使

 死にたい――。  何度思って、何度失敗しただろう。  毒を飲んだり、  自分で首絞めたり、  練炭で一酸化炭素起こしたり。  やってみたけど、無理だった。  不老不死の僕には、やっぱり無理なんだ。  どうしてこの身体に産まれたのだろう。  学校では僕へのイジメばっかり。  好きな人には振られ、  親友だった奴が離れていった。  先生に至っては、イジメを気づいてやしない。  最悪のクラスだ。最悪の教師だ。  もう、嫌だ。  なのに死ねない。  こんな自分、嫌いだ。  お母さん――。  なんでこんな僕を残して死んじゃったんだ。  僕も連れてってよ――。 「お母さんの事、嫌いなの?」  声がする方を見ると、そこには羽の生え、天使の輪がついている女の子がいた。  立ってはいなかった。浮いていた。 「何、お前……」 「この天使様に『お前』とは。ったく、最近の子はこうなんだから……」  自称天使は、やれやれ、という顔をして言った。  天使……?   はっ。馬鹿げてる。 「ぼくはね、キミの願いを叶えるために来たんだ」 「僕に願いなんてない。帰っていいよ」  願いがないなんて嘘だ。  でも、こんな奴が僕の家に勝手に入ってきてるから、帰らせたかった。 「うっそだあー」 「嘘じゃないし」  僕がそう言うと、自称天使はニヤッとして言った。 「ぼくは、キミの心の声が聞こえるんだよ? そう、キミがぼくを帰らせたいって事も」  !  ば、バレてる……!?  まさかな。信じるな、僕。 「本当だよ。信じてよ、そろそろ」  ……また、読まれた。  なんで、どうして。  まさか本当に、天使……? 「そう、ぼくは天使。キミのその、『死にたい』って願いを叶えるために来たんだ」  嘘だと思いたい。  でも天使という証拠しかない。  あー、コイツは本物だ。 「よろしくね」  天使は安心したのか、満点の笑みを浮かべ、そう言った。         * * *  あれから三週間。  未だに僕は死ねていない。  アイツにも会っていない。  あの野郎……詐欺師かよ。 「詐欺師じゃないよ、天使だよ」  急に現れた天使は、前と少し変わっていた。  なんだろう、なんか違うけど、なんだろう……。 「前髪の長さにも気づかないなんて。だから振られたんじゃないの?」  呆れた顔をして、天使はそう言った。  だから、振られた――。  ふと、あの頃の事が思い出される。  放課後、話があるので教室に残ってくれませんか。  僕は、好きだった「みやちゃん」にそう言った。  彼女はクラスの中ではイジメグループの三番だったんだけど、僕は何故かそんな彼女が好きになった。 「何? 話って」 「あの、えっと……」  赤面になりながら、僕は言った。 「僕、みやちゃんが好きです……!」  恥ずかしくて、最後の方は声が出てなかったかもしれない。  そう思いながらみやちゃんを見ると、彼女は笑っていた。  それも、イジメの時の顔で。 「アンタの事好きになる女子とかいねーし! 私に告るの、すっごい勇気出したねぇ? でも残念でしたー!! アッハハ!」  そして彼女は鞄を取り、教室を出た。 「あーあ、残らなきゃ良かった」  出る時にそう言ったのが、聞こえた。  僕は目の前が真っ暗になって、それで。  ……その後の事は、覚えていない。  確かに、クラスで目立たない陰キャ男子だし、頭悪いし、弱いけど。  なんでそんな事言われないといけないんだ。 「僕、天使みたいな性格の人大っ嫌い」  僕は天使を睨みつけて、こう言った。  天使は、「そう……」と言って消えた。  それから一ヶ月経っても、二ヶ月経っても、天使は現れなかった。  言い過ぎたかな……。  ごめん、と言っても、天使は現れなかった。  ははっ。馬鹿だな、僕。  最期の話し相手まで離れてさ。  死にたい気分だ。  でも僕は、死ねない。  そう。例え、この八階建てビルの屋上から落ちても……。  ふらっと屋上に立ち寄り、手すりに手をかける。  そのまま僕は、とんだ。  まあどうせ、死ねないんだけどな……。 『キミは死ねるよ』  その時、天使の声がした。  頭の中から聞こえてるように思える。 『ぼくが、キミを死ねる身体にしてあげたんだ』  天使は、フフン、と笑って、『感謝してよね』と言った。 「天使は、今、どこにいるんだ?」 『ぼくは今、キミの中だ』  僕の、中……? 『そう。ぼくはキミに嫌われた天使だ』  嫌われた、天使。 『天使は、人に好かれてないといけないんだよ』  そう、なんだ……。 『だから、キミに嫌われたぼくは、死ななきゃいけない。キミと一緒にね』  天使が、死ぬ……?  確かに、僕は天使に「大っ嫌い」と言った。  だけど、だけど……! 「僕は天使の事、好きだよ……」  天使からの声はなかった。  数秒間沈黙が続いた。 いや、一瞬だった。 『……ぼくも、好きだよ』  天使はこう、僕に言った。 『でも、ここからもう出れないや』  ハハ、と枯れた声で天使が笑う。  天使、好きだよ。だから、死なないで。 『無理なんだ。これが、運命なんだ』  なんだよ、それ。 「嫌だ……」  違うんだ、あれは。  あれは、カッとなって……。 『そういうとこ、変わってないね』  天使が、フフッ、と笑って言った。  まさか、お前は――。 「八月十日、◯◯県の☓☓ビルの下で、男女二名の死体が見つかりました。周りの方は、自殺だと考えています」
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