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13
ぎしり、とベッドが軋む。その上で、瑞姫はひっきりなしに喘いでいた。
部屋の中へと入った後にシャワーを借りて、気遣う央亮に向かって「今は何も聞かずに抱いて欲しい」と頼んだのは瑞姫自身で、央亮は少し考えた風ではあったがそれを受け入れて、今二人は情交を結んでいる。
「あうっ……やぁ、だめっ…………!」
瑞姫の足をV字に開き、高く持ち上げたまま、央亮が奥深くまでインサートする。深い交合に、シーツを握りしめて瑞姫は弱弱しく首を振った。どん、と央亮の腰が肌へと強く当たると、奥への衝撃が凄まじく、中で達してしまい瑞姫の目が見開かれる。
「はは、瑞姫、イきっぱなし……すご……ほら、ここ、好きだよね」
奥深く、更に続く弁の入口を切先で突かれて、頭が真っ白になるようだった。
「ひっ……お、すけっ……やあぁ……!」
「嫌じゃない……ほら、ここ、吸い付いてくる」
央亮の腰が上下左右に動くと、その先っぽが奥への入り口をグリグリと抉る。その度に足が痙攣して、中の肉が収縮し、央亮のものを締め付けた。は、と央亮が息を吐き出してから、瑞姫の身体を折り曲げつつ上体を下げる。
「ひ、ぐっ……ふかっ……んんっ、あっ……」
「本当、敏感……最高の身体だよね、瑞姫は……」
首筋にある赤い痕の上に口付けた。力を入れずに噛みつき、強く吸い上げる。既に何度もその場所で同じことが繰り返されていた。快感の波の中にいても、それは辛うじてわかった。
「あふっ……あ、なん、で……そこ、ばっかり……」
「ああ……ここ、ね」
もう一度同じ場所を強く吸い上げてから、央亮は顔を上げて、瑞姫の唇を舐める。
「痕、がついててね……俺じゃないやつの」
「あっ……」
あの時の痕、だーー瑞姫の頭の中に、義隆から押し倒された記憶が蘇る。限りなく不可抗力ではあったが、浮気、と責められればそれはその通りだ。にっこりと央亮は笑ったが、目は細められていて、笑みを表すものではなかった。その様に、ひく、と瑞姫は短い息を飲み、央亮は顔を近づけて、瑞姫の唇をもう一度舐める。
「来ていきなり、抱いてくれ、なんて言うし……ま、おかしいとは思ったけどね。まさかこんなもの付けて来るとは……俺にも許せることと、そうでないことってのはある。今日のは、アウト。だから、たくさん喘ぐといい。今の瑞姫が誰のものか……身体で教えてあげるよ」
央亮が最後の言葉と共に、ぐ、と腰を動かして挿入が深めると、その亀頭がずっぷりと弁を超えて埋まった。瑞姫の口が大きく開かれて、声にならない悲鳴が漏れる。柔らかい肉がビクビクと震えて、うねり、央亮のものを更に奥へと誘うように蠢いた。
「ひうっ…………!」
「ほら、この奥、すごく気持ちいいよね?……瑞姫?」
先ほどまでは多少なりとも自我があった瑞姫だが、凄まじい快感が瑞姫の意識を悦楽の渦の中へと突き落としていた。呼びかけにもまともに返事ない瑞姫に、央亮からは笑いが漏れる。
「ああ、トんだか。これじゃお仕置きにもならないなぁ……ま、いいけど」
開かれたままの口の中を舐めまわしてから、央亮は身体を起こす。ハマり込んだ場所から一度自身のそれを引き抜いて、もう一度叩き込んで、抽送を早める。瑞姫は中が擦られるたびに声を漏らし、ぐちゅぐちゅじゅぽじゅぽと二人の結合部からもいやらしい水音が響いた。
「ひ、っ……あ、あ、あ、あ、あっ……おうすけっ、おうすけぇっ……」
無意識に無我夢中で瑞姫が呼ぶのは央亮の名前だ。央亮はそれに荒い息を吐き出しながら、また笑う。誰に抱かれているかくらいは判別がつくらしい瑞姫に、央亮の気分は上がっていた。
「ふふ、可愛いねぇ……一番奥に、出してあげるよ……っ」
自身の昂りに合わせて隘路の中、出し入れを繰り返し、奥深くへと腰を突き出した瞬間に、央亮のものが瑞姫の肉の中、最奥で爆ぜる。白濁液がそこでビュルリと撒き散らされた。それを感じながら、瑞姫もまたドライオーガズムを極め、背中をシーツの上でしならせる。
「あああああっ!な、か……あつぃい……っ」
「……っ、は、よく締まる……。まだまだ夜は長いしね……。たーくさん愛し合おうね、瑞姫……」
痙攣を繰り返す瑞姫の身体を見つめつつ、ゆるりと腰を動かして、央亮は最後まで注ぐ。足を抱え直しながら、まだ萎えない自身を中の肉に擦り付けるようにしつつ、上体を再度下げて、央亮は瑞姫の唇を塞いだ。
※
散々と自分が好きなように抱き潰し、央亮が瑞姫から身体を離した時には、明け方に近かった。既に瑞姫の意識はなく、自分も疲労感が強い。央亮は身体を起こして、髪を掻き上げながら、瑞姫を一度見遣る。その身体の上には衣服に隠れる隠れない関係なく、無数にキスマークが散らばり、体液に塗れていた。央亮が近くにあるスマホを手に取る。
「……ああ、そろそろ容量がまずいな……いったん、PCに移そうか……」
ぼそりと呟きながら、カメラ機能を立ち上げて、そこからビデオを選択して録画開始ボタンを押した。ぐったりとした瑞姫の顔が映るようにしながら、繰り返し嬲り続けた場所から、ずるりと自分のものを引き抜く。画面の中にはその場所もバッチリと入っている。
央亮のものがなくなった場所はすぐに閉じることなく、開いた菊口から精液がごぽりと流れ出た。
「はは、最高だね……可愛い可愛い瑞姫……ここに、そのうち……」
空いている指を伸ばして穴へと当てがい、中に入れる。そうすると精液がまた溢れてシーツの上に落ちていく。瑞姫の身体が、刺激にピクン、と揺れ、
「…………よ、……たか…………」
瑞姫の口から小さく名前が刻まれた。その姿も画面の中に収めたあと、央亮は停止ボタンを押した。指を引き抜き、自身が出したものに塗れたそれを瑞姫の身体の上に擦り付ける。
「この姿、俺だけじゃなく見せてあげたいよねぇ……姫」
そう呟いた央亮の目は楽し気に細められていた。
※
「あ…………」
瑞姫が目覚めたのは、朝の光が差し込む時間だ。隣には既に央亮の姿はなく、身体を少し上げて、辺りを見回す。見つけた央亮は部屋の隅にあるソファへと座って、本を読んでいた。そちらも起きた瑞姫に気付き、本から顔を上げる。
「ああ、起きた?待ってて、飲み物を持ってくるから」
本をソファに置いて立ち上がる。リビングへと向かう途中、瑞姫のそばへと立ち寄って、頭を撫でた。身体は大丈夫?と聞かれて瑞姫は頷いた。
央亮が部屋から出た後、自分の身体をなんとなく見下ろす。
さっぱりとしているので、後始末は央亮がやってくれたのだろう。肌の上にはあちらこちらに赤い痕が残っていた。一つ二つと指先で辿っていると、央亮が戻ってきた。
「あー……結構つけちゃったね、俺。もっと自分をコントロールできると思ってたんだけどなぁ。自分で思ってたよりも嫉妬深いみたいで……ごめんね?」
瑞姫の姿を見て、申し訳なさそうな顔をしつつ、ベッドへと央亮が座る。そして手に持っていた淡い灰色のマグカップを瑞姫へと差し出した。瑞姫はベッドの上へと座り、ハーブの香りがするそれを受け取りながら、瑞姫は首を横に振った。
「……いい。その、こういうのも、嬉しい……央亮、だから……」
「ふふ、可愛いことを言うね?益々と離せなくなるなぁ」
瑞姫がポツリポツリと言ったことに、央亮は微笑むと身を乗り出して、央亮が瑞姫の髪へと口付けを落とす。そのまま、片手でベッドの上に転がっていたバスローブを引き寄せて瑞姫の肩にかけてやる。
「まあ、とりあえず飲んで」
言われることに頷き、瑞姫はマグカップに口をつけた。口にしたものは温かいが、適温で火傷をすることのない熱さだ。息を吐き出しながら、美味しい、と落とすと央亮の手がもう一度瑞姫の頭を撫でる。
「話を……聞いた方がいい?無理して話す必要性は、俺はないと思うよ?」
瑞姫の髪に触れながら央亮はゆっくりとした口調でそう告げる。でも、と繋げて、髪から首筋へと指を下ろし、赤く色づく痕へと触れる。瑞姫の身体が、小さく揺れた。
「この痕は気になるね」
「あ……これ、は……その、違う。その……」
何からどう話していいか分からず、瑞姫は迷いながら央亮を見上げる。見上げた顔に怒りのようなものは浮かんでおらず、ただ苦笑が見えた。怒りがないことに安堵はしたものの、胸が少し痛んで、マグカップをサイドテーブルに置いてから、瑞姫は央亮へと抱きついた。
「どうしたの?」
「央亮、央亮……」
問いかけに答えられないまま、瑞姫は何度も央亮の名を呼んだ。そんな瑞姫を央亮もやんわりと抱きしめる。央亮は落ち着かせるかのように、瑞姫の背中を撫でた。
「告白でもされて……押し倒された?ヨシタカ君とやらに」
瑞姫の上で、央亮が聞いた。瑞姫は目を見開き、その場所から央亮を見上げる。央亮に義隆の名を語った覚えは瑞姫にはない。昨日のことだって、まだ話してはいない。愕然として、どうして、と小さく呟くと、央亮は困ったように笑った。
「おや。当たった?かまかけのつもりだったんだけどなぁ……名前は寝言で言っていたよ。行動は直情的な男が取りやすいことを適当に言ってみたんだけどね……。それで、瑞姫はどうしたいんだい?昔から好きだったんだよね?渡りに船では?」
央亮は、やはり怒った様子は一つも垣間見せず、冷静な口調で言い首を傾げた。瑞姫は、一瞬言葉を失い、央亮を見つめる。たまに瑞姫には央亮が分からなくなる。好きだ愛してる、離せない、全部を……と様々に自分に言いながら、熱を交わしながらも、先ほどのように瑞姫を放すような言い回しをするのだ。そんな時、瑞姫はとても不安になる。
「そ、んな……」
「昔から好きだった相手と結ばれるなんて、そうそうないよ?俺のことを少しでも好きでいてくれるのは嬉しいけどね。どちらかを選ばないといけないならば、俺は彼をおすすめするよ。俺とのことは一時的な経験とでも思えばいい」
ね?と央亮は瑞姫の額に口付けた。
央亮と別れて、義隆と?そんなことが許されるのか?でも、央亮はそうしろと言う。でも、そんな……。瑞姫の頭の中は混乱していた。
義隆を選べば幸せになれるのか?ーーわからない。でも変に真面目な自分は央亮に対して罪悪感は消えないだろう。
央亮を選べば幸せになれるのか?ーーわからない。義隆を消し去ることが出来るのかさえも、わからない。
どちらにしろーーわからない。瑞姫には、わからない。
でも。今、自分の目の前にいて、自分の話を聞き、熱を与えてくれるのは央亮だ。それを無碍にして、幸せになれるとは、今の瑞姫には到底思えなかった。あの義隆が。愛してやまない義隆が、自分を好きだと言ったとしても。
瑞姫は央亮の肩に顔を埋めて、抱きつく手に力を入れる。
「あなたが、よく分からない……俺のことを愛してくれているのではないの?」
その場所から、瑞姫は感情のまま央亮に問いかけた。央亮の表情は見えない。央亮は背中を撫でていた手を止めて、ゆるく息を吐き出した。そのまま、瑞姫をベッドへと押し倒す。背中に柔らかさを感じながら、瑞姫は央亮を見た。央亮も瑞姫を見た。二人の視線が交差する。
「自分でも吃驚するくらいに、ね。今までここまで想った人間は、瑞姫以外にはいないと思うよ?瑞姫が初めてで最後だね」
央亮の言葉。それは真摯なもので、嘘偽りはないように瑞姫には見えた。実際に、央亮の言葉は本物だ。ただ、それが瑞姫の望むような形であるかどうかは別ではあるが。央亮は瑞姫の額に、何度目かのキスを落とした。
「愛しているよ、瑞姫。心から、ね」
額の上で、そう呟く。声に瑞姫は、ぎゅ、と胸が締め付けられた。
馬鹿な義隆。どうして今だった?馬鹿な俺。どうして心を分けたのか?
そこまで考えて、未だに俺は悲劇のヒロイン気取りか、と隅にいる自分が自分自身に唾を吐く。その通りだ。
自問自答は、もう無意味に思えて、瑞姫はゆっくりと息を吐く。そして、改めて央亮へと回したままの手に力を込めた。
「……央亮、俺は、あなたを……あなた、がいい……」
昨夜言ったことを、瑞姫はゆっくりと、もう一度央亮へと告げる。
央亮は瑞姫の見えない場所で、その目に歪んだ笑みを浮かべた。
「瑞姫、愛しているよ……」
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