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 夏休みの宿題でナイチンゲールの伝記を読んで読書感想文を書いて幾星霜。 どんな感想文を書いたかは覚えていないが、「ナイチンゲールのような白衣の天使になりたいと思います」と言う一文で締めたことだけは覚えている。 ナイチンゲールの伝記で読書感想文を書けば、大半の者がお決まりに使う常套句(クリシェ)であるが、有言実行した者となればゼロに近い極々僅かになるだろう。 うろ覚えではあるが、卒業文集にもその志を書いた覚えが僅かにある。  私はその極々僅かの中の一人で、本当にナイチンゲールに憧れて一所懸命に勉強をし高校卒業後は看護学校へと進学し、国家試験を受けて合格し看護師になったのである。 クリミア戦争時、敵味方の区別をすることなく傷病兵の手当てを献身的に行う看護団がいた。その看護団のリーダーこそがフローレンス・ナイチンゲール。 伝記で書かれたその姿に憧れて、看護師になったものの現実は過酷(KAKOKU)そのもの。 Kがいくつあっても足りない。 きつい(KITUI)。二十四時間を三分割しての三交代制、勤務内容も移乗介助・体位変換・入浴介助などの患者を抱きかかえる力仕事が大半故に腰を壊して辞める看護師も少なくない。 小さなミス一つで大きな医療事故に繋がるために一瞬たりとも気を抜くことが出来ない精神的な辛さもある。 汚い(KITANAI)。便・尿・痰・膿・ストーマの交換・ドレーンの廃液処理は当然のこと、近年では一人で下の世話が出来ない高齢患者や認知症患者も増加しているために排泄介助をする機会も増えている。長いうちに「仕事」だと慣れる看護師もいれば、どうしても慣れることが出来ずに辞める看護師もいる。私は前者になってしまった。 危険(KIKEN)。看護の仕事は常に感染症と隣合わせ、飛沫感染・接触感染・血液感染などと何時何時(いつなんとき)感染症にかかる可能性が高い。 患者さんも認知症や精神障碍や病気による不安などから、暴力的になることもある。私は「看護に心がこもっていない」と罵られ殴られたことが何度もある。 給料が安い(KYUURYO YASUI)。先述の3Kの割に合っていない、三交代制の不規則な夜勤は体力的にも精神的にも負担はかかるもの。一般的なサラリーマンに比べれば若干は高いが日の日中に八時間と若干の労働と給料が似たようなものと考えるとゲンナリとしてくる。私達に指示を与える医師の小林先生と比べれば、余計にゲンナリとするだけなので最早禁忌としか言いようがない。
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