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「げはっ……!」
武田さんの口の中より大量の唾液が吐き出された。唾液で誤嚥が起こることは珍しくない。これで呼吸を取り戻してくれれば助かるのだが。
「大丈夫ですか!? 大丈夫ですか!?」
「……」
反応がない、口からの呼吸もない。そして、武田さんは肩を落としグタリとしてしまう。
誤嚥の時間が長すぎて、手遅れになってしまったのか? このような誤嚥では一分一秒でも気道異物除去が必要になる。遅かったのだろうか?
「どけっ!」
小林先生がやってきた。私を乱暴に退かすように突き飛ばすと、すぐに心臓マッサージを行う。胸骨を砕かん勢いの激しい音が病室内に響く。
響くのは激しい音ばかりで、心音は響かない。やがて、小林先生の手が止まった。
「はぁ……」
小林先生は悄然とした表情を浮かべながら天を仰ぎ、武田さんの目をライトで照らして瞳孔反応を確認し、手首に手を当てて脈拍の確認を行う。
そして、俯きながら首を横に振り…… 左手に輝く高級腕時計の時刻を読み上げる。
「午前二時十九分、御臨終です」
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