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「あのさ。西野くん、取引しない?」
少し小さめな声は 同じクラスの陰キャ、ボッチ女子、雪平さんだ。
雪平さんはいつも自分の席で文庫本を読んでいる。教室の片隅で和柄のブックカバーがかかった本の世界に閉じこもっている彼女を、俺は親近感を持って眺めていた。
けれども、普段挨拶ぐらいしか言葉を交わさない雪平さんが実際どんな人なのか俺は良くわかっていない。今も小さいけれど思ったよりも芯のある声を掛けられて、戸惑っている。
「えっと・・・? 取引? 何の話?」
「私の頼みを聞いてくれたら、西野くんと後夜祭に行っても良いよっていう話」
笑顔の雪平さんに俺は目を丸くした。どうやら彼女は魔法使いだったらしい。雪平さんがそんな取引を持ちかけるなんて意外だった。けど、確かに一緒に参加してくれる人がいるなら、普段浮いている俺に対する周囲の視線も違うはずだ。
すぐにでも承諾したい気持ちを何とか抑えて尋ねる。こういうときガッツいてはいけない。
「頼み事って? 場合によってはその話乗ってもいいけど」
すると雪平さんはとても真剣な顔になった。小動物系の雪平さんが真面目な顔をすると逆にコミカルだ。
「探しものを手伝って欲しいの」
「探しもの? 何?」
雪平さんは更に小さな声で囁く。
「天使。一緒に探してくれる?」
俺は雪平さんの顔をまじまじと見つめ、慌てて周囲を見回した。
「からかってる? 誰か動画撮ってるとか?」
「からかってるわけじゃないの。私、本当に天使を探してるの」
「絶対からかってるでしょ?」
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