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雪平さんの表情は至って真面目で、こっちがおかしいのかと錯覚するほどだ。だが、それだけに業が深い。俺は盛大にため息を吐いた。
陰キャが陰キャを狩ろうとするなんて、納豆がトロロを食べようとするみたいなもんじゃないか。ちょっとしたホラーだ。
落胆してその場を離れようとすると、雪平さんが俺の手を掴む。
その瞬間、悲鳴を上げた。雪平さんの手が氷のように冷たかったからだ。
「からかってない! 私、困ってるの!・・・もっともこんな手で後夜祭に誘われても困るよね?」
今にも泣き出しそうな雪平さんを前に、俺はとりあえず話を聞くことにした。
昨夜、雪平さんは不思議な夢を見たそうだ。
深遠な闇の中、まばゆい光が彼女にこう語りかけた。
「この世に天使と悪魔あり。明日、そなたが天使を見出さざれば、悪魔覚醒し世を滅ぼさん。探し求めよ、天使を。それ、そなたの役目なり」
とんでもないお告げだが、夢の中だったので雪平さんは割と冷静だったそうだ。
「あの? 悪魔に滅ぼされるのは日本だけじゃなくて世界もでしょうか?」
「何故そのようなことを問う?」
「日本だけなら外国に逃げようと思います。ダメでしょうか?」
夢の中なので雪平さんは多少常識からずれた発言をした。光は若干呆れた声を出す。
「滅ぼされるは世界なり。故に逃げること能わず」
雪平さんは不満げに尋ねた。
「その天使ってどこにいるんですか?そもそも私に見つけられるんですか?」
「天使も悪魔もそなたの身のまわりにあり。かつ、そなたには見出す力が備われり」
それだけ言うと、光は小さくなり始める。雪平さんは慌てた。
「ちょっと待って下さい! もう少しヒント! ヒントを下さい!」
「良かろう。どうしても見出だすことができぬ時は、一人の友に力を請うて見よ。必ずや善き結果を得るべし」
その言葉を最後に、光は闇の中に溶けるように消えて、雪平さんは目を覚ましたのだ。
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