エンジェル・サーチ

4/9
前へ
/9ページ
次へ
 雪平さんの表情は至って真面目で、こっちがおかしいのかと錯覚するほどだ。だが、それだけに業が深い。俺は盛大にため息を吐いた。  陰キャが陰キャを狩ろうとするなんて、納豆がトロロを食べようとするみたいなもんじゃないか。ちょっとしたホラーだ。 落胆してその場を離れようとすると、雪平さんが俺の手を掴む。  その瞬間、悲鳴を上げた。雪平さんの手が氷のように冷たかったからだ。 「からかってない! 私、困ってるの!・・・もっともこんな手で後夜祭に誘われても困るよね?」  今にも泣き出しそうな雪平さんを前に、俺はとりあえず話を聞くことにした。  昨夜、雪平さんは不思議な夢を見たそうだ。  深遠な闇の中、まばゆい光が彼女にこう語りかけた。 「この世に天使と悪魔あり。明日、そなたが天使を見出さざれば、悪魔覚醒し世を滅ぼさん。探し求めよ、天使を。それ、そなたの役目なり」  とんでもないお告げだが、夢の中だったので雪平さんは割と冷静だったそうだ。 「あの? 悪魔に滅ぼされるのは日本だけじゃなくて世界もでしょうか?」 「何故そのようなことを問う?」 「日本だけなら外国に逃げようと思います。ダメでしょうか?」  夢の中なので雪平さんは多少常識からずれた発言をした。光は若干呆れた声を出す。 「滅ぼされるは世界なり。故に逃げること能わず」  雪平さんは不満げに尋ねた。 「その天使ってどこにいるんですか?そもそも私に見つけられるんですか?」 「天使も悪魔もそなたの身のまわりにあり。かつ、そなたには見出す力が備われり」  それだけ言うと、光は小さくなり始める。雪平さんは慌てた。 「ちょっと待って下さい! もう少しヒント! ヒントを下さい!」 「良かろう。どうしても見出だすことができぬ時は、一人の友に力を請うて見よ。必ずや善き結果を得るべし」  その言葉を最後に、光は闇の中に溶けるように消えて、雪平さんは目を覚ましたのだ。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加