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「だから朝から天使っぽい人を探してたんだけど見つからなくて・・・。そのうち左手が異常なくらい冷たくなってきちゃったの。これってもう時間がないっていうメッセージだと思ったから、神様? の言葉通り友達の力を借りることにしたんだ」
確かに雪平さんの左手は氷塊から削り出したように冷たかった。人間の体温としてはおよそ考えられない。まるで血液がトマトスムージーに、そして細胞核の一つ一つが雪の結晶になってしまったみたいに。つまり彼女が昨夜見たのはただの夢ではない。
「その力を借りる『一人の友』が俺? 」
不本意ながら戸惑わずにはいられない。もっと頼り甲斐のある奴にした方が良いんじゃないのか?
雪平さんが唇を尖らせた。
「だって、もう西野くんしか教室にいないじゃん」
なんて行き当たりばったりなんだ。これじゃ、本当に世界が滅んでしまうかもしれない。
俺は雪平さんが今まで想像してた性格と大分違うことに気づいた。この人、内気でボッチだったわけじゃなくて、単純に群れるのが面倒なタイプだ。
そのとき、校庭からアナウンスが聞こえた。
「これより後夜祭を始めます。フォークダンスに参加したい方は校庭に集まって下さい」
俺は雪平さんに言った。
「とりあえず後夜祭に行こう。まだ生徒は大勢残っているはず。 その中に天使がいるかもしれない」
雪平さんが不安げな顔になる。
「今思ったんだけど、そもそも天使って生徒や先生みたいに人間の中にいるのかな? それとも、他の人には見えなくて私達だけに見えるのかな?」
考え込む雪平さんに、俺は周囲を見回した。
「どっちにしてもここにはいないみたいだよ?」
「もしかして、この中にいるかも」
雪平さんはガタガタと机の中を覗き始める。
「そんなミニサイズだったら、発見するのは不可能だな。学校にある全部の机見て回るわけにもいかないし」
「そうだよね。ロッカーとか引き出しとか隠れる場所たくさんあるし・・・」
俺達は途方に暮れそうになったが、残された時間は限られている。雪平さんが真剣な表情で意を決したように口を開いた。
「『友に力を請うて見よ』って神様は言ってた。だから西野くんが決めて。どこを探したら良いと思う?」
迷った挙句、俺は返答した。
「・・・やっぱり後夜祭に行ってみよう。イメージ的に天使って明るいんじゃないかな? せっかくこれからお祭りが行われるのに、机やロッカーの中に潜んでいるような屈折した性格は想像しにくいよ」
「なるほど。一理あるかも」
雪平さんは感心してホッとしたような顔になる。それを見た俺も少し安堵した。
「じゃ、ちょっと待ってて」
「何を?」
「俺がトイレで制服に着替えるのを」
「え? 時間ないんだよ? このまま行こうよ」
俺は慌てた。まだメイド服姿なのに。
「あそこ人多いし、学校関係者以外も今日はいるから!」
「こういうときは目立つ方が良いと思う。西野くん、影薄いし。その格好なら皆話し掛けてくれるんじゃないかな?」
傷つくことをサラリと言われて思わず言い返す。
「雪平さんも影薄いだろ!」
「だから、西野くんが私の分まで目立たないと」
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