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雪平さんは右手で俺の手を引くと強引に教室から引きずりだした。
メイド服姿の俺と雪平さんが手をつないで現れると、校庭にいたクラスメートたちは騒然となった。
すぐに同じクラスでサッカー部の石原が声を掛けて来る。
「西野、お前、ひょっとして雪平と付き合ってたの?」
「付き合ってない。ただそこで一緒になっただけだ」
俺は慌てて雪平さんの手を振り払った。
何で手をつないで登場してしまったんだ。一緒に参加するだけで良かったのに。
「ホントに? まあ、良いけどさ。でも、その格好は何?」
俺が何と答えるべきか困っていると、雪平さんがシレっと答える。
「西野くんが男子と踊りたいって言うから。それじゃ、女装のままのが良いねっていう話になって」
「おい! ちょっと待て!」
慌てて訂正しようとしたが、石原はもちろん、周りで聞いていた生徒たちも一気に沸いた。
「にしのぉー! 普段クールなお前がそこまでして盛り上げようとするとはなー!」
柔道部の大山が感激したように俺に抱きついてくる。
「西野くんって結構明るいんじゃん! いがーい!」
演劇部の高井さんも嬉しそうな笑顔を見せた。
「それでは只今より後夜祭を始めます。皆さん、焚火を中心に輪になって下さい」
生徒会長が朝礼台からそうアナウンスして、オクラホマミキサーが流れ始める。不本意ながら俺は女子の列に入って男子と踊り始めた。
チラッと雪平さんを見ると、なぜか男子の列で踊っている。左手で相手に触れないように器用にダンスしていた。
列がずれて行き、やがて雪平さんが俺の前にやって来る。ダンスしながら尋ねた。
「何で女子と踊ってるの?」
「だって西野くんが男子と踊っているんだから、私は女子と踊った方が、天使が見つかる確率上がるでしょ?」
なるほど。でも、果たして俺に天使を見つけられる力なんて本当にあるのだろうか?
雪平さんが右手で俺の左手を取り、くるりとターンする。炎に照らし出された彼女の白いうなじにかかる髪が踊り、フワリと良い匂いに俺は包まれた。
辺りが暗いせいで瞳が大きくなっている雪平さんから、俺は思わず顔を背ける。まるで全身が心臓になったみたいに鼓動がうるさい。
この状況は反則だ。俺みたいに普段女子と接点がない男子なら全員、雪平さんのことを可愛いと思ってしまうに違いないのだから。
「西野くん、ボーっとしてない? ちゃんと探してよね」
雪平さんは制服のスカートを翻して、次のダンス相手の元へ去って行った。
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