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黒のオーバーサイズの長ズボンを履いて、その上には無地の黒のシャツ、極めつけとばかにりに黒のマスクをつけているゆずるは、また首もとを掻いた。
「さて、行こうか」と駅の構内を、右手に持ったスマホで指した夏目の背中を追うようにして、一度こくりと頷き、ゆずるも後に続く。
過去に言うところの「憂鬱の箱舟」に揺られて、夏目とゆずるは、席に隣り合って座って、目的地である水族館の最寄り駅を目指した。
――周囲には、驚くほど同一のスーツを身に着け、そして同一の虚ろな目をした老若男女が、犇めいていた。
そんな人の群れに囲まれて、土曜日だというのに、少し、憂鬱な気分を誘われた。
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