第44話 ブラックシーネットルの奢り

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 まさか、こんな身近な人に、似たような境遇に遭った人がいたとは……ゆずるは、言葉を奪われてしまって、しかし、静かに聞く耳を傾けていた。 ――なんだか、夏目との距離が、ぐっと、近くなったような気がする。それは、物理的な距離でなくて、精神的な面での「キョリ」だ。  すると、夏目の語りの雰囲気ががらっと変わって、唐突に「鬱あるある」と言い出した。 「ベッドから起き上がれない、風呂に入れなくなって髪がベタベタになる、急に涙が流れる……」  ゆずるは、夏目が羅列したそれに、大いに共感した。 「……分かる。なんか、風呂にしばらく入ってないと、髪、めっちゃ抜けない?」 「お風呂に入らないことが、抜け毛の原因にはならないらしいけどね。たぶん、おんなじ場所にずっと横になってるから、抜けた髪が多く見えるってことだと思う」  何やら、調べてみたことがありそうな感じに、夏目は力説した。「なるほど」と相槌を打ちながら、ゆずるは共感の大波に飲まれていた。 「ベッドから起き上がれなくなるのは、やっぱり、ハルカも一緒?」  果たして、この症状は共通なのかと、今一度、確かめてみたくなった。
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