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夏目であれば、沈黙を破るとき、「はい、か、いいえで答えて」と言いそうな気がした。先手を打たれて、逃げ場を失うことがないように、しかし、的確かつ曖昧で、七瀬も夏目も傷つけないような答えを絞り出したつもりだった。
オレンジジュースをストローでグビグビと飲んだ夏目は、ふん、と鼻を鳴らした。
「気になってるなら、なんで会いに行かないの?」
「……俺が七瀬のこと気になってるのは本当だけど、七瀬が俺のこと許してくれるか、分からないから」
自信なさげに、さらに「大学で新しい人と仲良くしてるかもしれないし」と、ゆずるは、付け加えた。
それに、ゆずるの頭の中で、あの光景が暴れて、キーンとした痛みをともなう頭痛を引き起こしている。
――卒業式後、来栖が、3年D組の教室にて、七瀬に告白している光景が、胸をむず痒くさせる。彼は、衆目の前で堂々と七瀬に『好きです』と言っていた。
しかし、来栖という人間が、加賀美ゆずるという人間よりも優れた点に富んでいることは事実。彼の積極性やコミュニケーションの技法、さらに勉強への取り組み方の真面目さは、見習いたいぐらいだ。
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