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そんな人間を押し退けて七瀬に迫れるほど、自分は強い存在ではないと、ゆずるは自覚していた。
まさに、過去に描いた『蛇に睨まれたカエル』を思い出していた。
「そんな恋するゆずるくんに、一つ、ワシが有益な情報を授けよう」
なぜだか口調が仙人風になった夏目が、ひとさし指を立てた。
「くるみちゃんが気になってたバイト先の先輩のこと、ゆずるは知ってる?」
「ああ、一年生の頃、話、聞いたことある」
夏目が明言したそれは、少々記憶を遡る。
暖かい陽気が漂う午後、七瀬宅にお邪魔させてもらって、オセロをしながら彼女の恋バナに耳を貸した記憶は、今なお、なぜだか鮮明で、真新しかった。
彼女は、バイト先の先輩のことが「気になっている」としながら、身長が高いこと、困っていたら助けてくれる姿に胸がキュンキュンすると語っていたか。
「くるみちゃん、その人に告白したんだけど、『俺、彼女いるんだよね』って、振られてたよ」
口を小さく開けて唖然としたゆずるに、夏目は「ほんとだよ」と真実であると箔付けた。
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