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独特な口調の残響にまみれて、夏目は自宅の方向へと歩んでいった。居酒屋やバーが乱立する煌びやかな通りの人混みに紛れて彼女の背中が見えなくなるまで、ゆずるは、夏目の背中を傍観していた。
――あらゆる不安とリスクを消し去るために、「死」へと踏み出そう。
しかし、夏目と会ったことで、その決意は揺らいでしまっていて、恐らく、崩れている真っ最中だった。
「……」
ゆずるは、スマホをぐっと握りしめながら、メッセージを打ち込んだ。
相手は、七瀬である。一対一での最後のメッセージは、今年の4月……つまり、高校の卒業式の後で、途絶えていた。
『久しぶり、元気?』
と、短くメッセージを送っておいた。
彼女から返信があれば、明日にでも会いたい旨を伝える。
――もしも、一週間以内にメッセージが返ってこなければ、死を歩む。
それは、七瀬が自分に興味がないことを暗示しているだろうから。そうであるならば、もう失うものはないだろうから。
自らの胸に誓って、ゆずるはスマホをリュックにしまって、帰宅するために歩き始めた。
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