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「力、どろだんごどうぞ」
すると、笑顔が人一倍かわいい憂雅くんが間に入ってきて、泥だらけの手で力さんの真っ白のエプロンに触ろうとした。
「力さんの服が汚れるから触るのはダメだよ!」
「……ごめんなさい」
慌てて口を挟むと、怒られたと思ったのか憂雅くんはしゅんと項垂れる。しまった、そんな顔させるつもりじゃなかったのに。
しかも司水パパの前で注意してしまった。まずい、初対面の男性に、子どもに声を荒らげるような気性の荒い女だってレッテルを貼られたくはない。
「力さんはお仕事あるから忙しいけど、遊びたいならお姉ちゃんとピカピカの泥団子つくって遊ぼう!」
落ち込んでる憂雅くんに笑いかける。憂雅くんは「ぴかぴか……?」と反応して私を見た。よしよし、食いついたぞ。
「こう見えて泥団子作るの得意なんだから!見て、これ私の最高傑作」
私は自分のスマホから、小学生の時作って家に飾っていたピッカピカの泥団子の写真を見せた。
「ひかってる!」
「すごいでしょ?」
「どうやったらこんなにピカピカになるの?」
「教えてあげるからついておいで!」
中庭に置いてあったスリッパを勝手に拝借し、庭に下りて泥団子の作り方を伝授することにした。
「見た目と性格が一致しねえだろ」
「なんとも……活発な子ですね」
「あれでも頭が切れるんだ」
「志勇がそう言うのならそうでしょうね」
さっさと壱華が待ってる部屋に行けばいいのに、志勇は私を観察して司水さんに笑いかける。え、明日雨でも降るかな。志勇が壱華じゃなくて私のこと褒めてる。
2人の様子を伺っていると、司水さんは私に対して優しく微笑んでくれた。どこかパパを思い浮かべる、ぬくもりのある眼差しだった。
「で、なんで志勇はイライラしてるの?」
少し目頭がうるっと熱を帯びてしまい、このまま黙ってると涙がこぼれそうだから志勇に話しかけてみた。
なーんかさっきから苛立ってない?しかも大切な壱華を放置してていいの?
「クソ親父が壱華を西に送り込めだとよ」
「……は?」
「あの野郎、壱華と目すら合わせなかった」
軽い気持ちで聞いたら、衝撃を受けて手から泥団子が滑り落ちた。グチャ。脆くも潰れて土に還り、憂雅くんは「落ちちゃった!」と大きな声を上げる。その声すらどこか遠くに聞こえた。
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