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しまった、こんなことをしてる場合じゃなかった。自分の保身ばかりで忘れてた。
荒瀬組の組長は、壱華をよく思ってないってこと。それは壱華の生い立ちが起因していることだけど、壱華に対しての扱いはかなり酷かったのを思い出した。
「壱華は大丈夫なの?」
「おふくろが守るさ。壱華をいたく気に入ってるようだからな。
むしろ態度の悪い親父と早々に引き離せてよかった」
「それで、組長は今どこに?」
「……そろそろ応接間に戻るだろうな。
俺は壱華を連れて帰るから、おふくろの相手頼んだぞ。チッ、あのクソ親父が」
志勇は大きな舌打ちをして、司水さんを連れ踵を返す。
「待って」
「あ?」
「志勇は、壱華を西に送れって命令されてなんて言ったの?」
私は引き止め、その背中に語りかけた。志勇は実の父である組長の命令に、どう反応したのだろう。
「壱華だけは使わせねえ、誰にも渡さねえって言ってやった」
不安だったけど、負の感情を吹き飛ばすような笑みに心の底から安心した。ここに来てようやく、壱華を志勇に預けたのは間違いじゃなかったって実感した。
「初めてあんたのこと好きになりそう……」
「勘弁してくれ、俺はお前みたいなちんちくりんタイプじゃねえ」
「またちんちくりんって言ったな、壱華に言いつけてやる!」
怒ったような口調で返したけど、笑みを噛み殺せなくて満面の笑顔を志勇に見せてしまった。
志勇は「楽しそうだな」と呟いて応接間に向かった。憂雅くんも「みのり、にこにこだねぇ」と太陽のような微笑みを見せてくれた。
中断した泥団子作りを再開して磨いていると、後ろから壱華の声が聞こえた。振り返ると、志勇の隣に立つ、微笑みをたずさえた壱華がそこにいた。
「えっ、壱華大丈夫なの!?嫌な目にあったって聞いて……」
「大丈夫、お母さん……紘香さんは私たち姉妹の味方だって言ってくれたから」
さすが、原作とは違って家族に愛されて育った壱華だ。ちょっとやそっとでブレないメンタルで良かった。そして姐さんが味方なのは好条件。
確か組長は妻には頭が上がらない男だった気がするから、彼女を味方につければ大抵の困難はクリアできそう。
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