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かくして私はひとりで組長夫妻と会わなければいけなくなった。颯馬に助けを求めたけど、親父が機嫌が悪い時は関わりたくないって突っぱねられた。
薄情者め……さすがの私も荒瀬組の親玉と対峙するのは緊張するのに。
だけど司水さんが付いてきてくれると言うから、ほっと胸をなでおろして壱華たちと別れた。司水さんの後を追い、応接間に向かうと黒い襖を開けられ、中に入るよう促された。
「失礼します」
一礼して中に入り、そして私は絶句した。なぜなら、言葉を失うほどの絶世の美女が部屋の奥に座っていたから。さらに彼女は私に笑顔を向けていた。
美人なら壱華で見慣れてると思ってた……でも、大人の女性の魅力って10代とは全然違う。
蠱惑的な笑みをモロに食らって、私は完全に目を奪われた。彼女が荒瀬組の姐さん、通称金獅子の君の荒瀬紘香。
濃密な色香を含んだ、形容しがたいほどの圧倒的な美貌に、淡い翡翠色の着物が良く似合う。さすが荒瀬兄弟の母親……とんでもない美人だ!
「どうぞ、お座りになって」
その美しさに見合う、鈴のような綺麗な声。私、女でよかった……男ならすぐにでも好きになる自信がある。
私は会釈をして、用意された座布団に正座した。
「うっ……」
そして顔を上げると、猛獣のような目付きの男に睨まれていることに気がついた。あまりの気迫に、私は驚いて声を漏らした。
なんで気がつかなかったんだろう、紘香さんの隣にこんな殺気立った人間がいるっていうのに。
スーツにオールバックで、鋭い目の雄々しい面構えの男。年齢は40代後半ってところかな。この人が“金獅子”の異名を持つ荒瀬冬磨、荒瀬組の組長か。
壱華……よくこんな恐ろしいおっさんと対峙できたね。私、冷や汗が止まらないんだけど。
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