荒瀬組本家

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「ねえ、冬磨」 「……なんだ」  睨みつけていた組長は、紘香さんに声をかけられるとぱっと眉間のしわを解いた。 「実莉ちゃんとお話したいんだけど」 「俺がいたって困る話じゃないだろう」 「あら、そんなに私と一緒にいたいのね」 「悪いのか?」  紘香さんは冷や汗だらだらの私に配慮して、遠回しに出ていって欲しいとお願いしたけど、組長はそれを断った。  距離感と、男の方がベタ惚れな感じ……なんかものすごい既視感。志勇と壱華を見てるみたい。美男美女のあの二人と違って、こっちは美女と野獣って感じ。 「ごめんなさいね、冬磨がいても大丈夫かしら」 「いえ、眼福ですありがとうございます」  すると不意に紘香さんの視線がこちらに向けられた。たしかに組長は恐ろしくて、志勇と比べ物にならないほど怖い。  志勇のプレッシャーが凍てつく風であるならば、組長のそれは無数の針のようで、刺される度に恐怖心を侵食していく。  でも、紘香さんのおかげでその恐怖心もだいぶ軽減されている。そして美女と野獣の組み合わせは私の大好物だ。見てるだけで活力になる。  眼福と口を滑らすと、組長は怪訝な顔をしてドン引きされた。うわー、その顔志勇にそっくり。 「ふふ、噂通り肝が座った子ね」  紘香さんはくすくす上品に笑う。組長には初対面で化け物を見るような顔をされたけど、警戒されるより変人扱いでいい。  最高権力である彼を味方にできるとは思ってないし。今日は紘香さんとお近付きになって、組長には危険性がないことを証明できれば十分だ。
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