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受胎告知
雨の日曜日。干物女の起床はお昼過ぎだ。女はもぞもぞと布団から顔を出し、枕元に置いてあったタバコに手を伸ばした。
「プハ〜」
煙の向こうに人影が見えた。寝ぼけているのかと煙を手で払うと、そこには金髪碧眼の麗しき美青年が微笑んでいた。
「ひ、ひゃーー! 鍵、鍵は掛けてあったはず。まさか今流行の強盗!? うちには何もありません! 貯金だって殆どないです。本当です。命ばかりは……」
寝癖で乱れた髪を振り乱し、女は懇願した。そんな女に美青年は優しく微笑んだ。
「マリア、私はあなたから何もいただきません。私はあなたに授けに来たのです」
「強盗じゃなくて鼠小僧? って、何で私の名前知ってるの?」
美青年はマリアに向かい恭しく跪いた。
「めでたし聖寵充ち満てるマリア。主はあなたとともにおられます」
「…………は?」
「私は主なる神から使わされたガブリエル、天使です」
「…………は?」
「今日あなたは身ごもるでしょう」
「…………強盗じゃなくて強か……!」
マリアは布団をギュッと抱き締め天使を睨みつけた。
「恐れる事はありません。あなたは男の子を産みます。その子は神の子と呼ばれ尊ばれる事でしょう。その子にイエスと名付けなさい」
「…………そんな名前付けられるわけないじゃない。私だって”マリア”なんて名前付けられて、さんざんからかわれたのよ。キラキラネーム反対!」
確かに令和の日本で「イエス」は無理であろうと天使は悟った。
「ならばあなたたち夫婦で良い名前を付けてあげてください」
「私結婚してません。そりゃ一応彼氏はいるけど、最近うまく行ってなくて連絡も殆ど取れてないし、1ヶ月以上会ってない。きっと他に女ができたんだわ。もう消滅寸前、風前の灯。なのに子どもできたなんて言ったら浮気したと思われて、完璧に破局よ!」
マリアは布団に潜り込んだ。半分諦め、半分未練。どうしてよいのか分からない状況だった。
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