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亀裂
「いってらっしゃい。気をつけて」
「行ってきます。マリアさんも無理しないで、ゆっくりしててくださいね。大事な体なんですから」
「ありがとうございます」
芳夫はマリアを気遣ってくれた。特別な子どもを身ごもったマリアをいつくしんでくれた。夕飯は毎日お弁当を買ってきてくれたり、何かしら材料を買ってきては料理をしてくれた。マリアも何かあってはいけないからと昼は出前を取った。
つわりも全くないので何でも食べる事ができた。干物体質のマリアにとって、まさに天国だった。
「プハ〜」
体調は快適そのものだった。とても妊婦とは思えない。なのでマリアはタバコをやめられずにいた。でも芳夫にはやめるように言われているので内緒にしていた。毎日散歩と称して近所の河原へ行き吸っていた。
「タバコ臭いんだけど」
「え……」
芳夫が眉をひそめた。
「やめたんだよね?」
「も、もちろん」
「それに……太ったね。ちゃんと運動してる?」
「もちろん。毎日お散歩に行ってるのよ」
元々ぐうたら体質のマリアは一服のための散歩以外殆ど動いていない。テレビや雑誌を見ながらお菓子を食べるのが日課だ。
「あんまり太ると出産の時大変らしいから気を付けてね」
「はい。これから気を付けます」
お菓子はカロリー控えめなのにしようと心に決めた。
しばらくして。
「京都の神社の修復に行く事になったんだ。1週間泊まり込みになります。山奥だから多分電波は届きません」
「大変ですね。頑張ってきてください」
芳夫が1週間の出張に出掛けた。マリアはすぐさまタバコに火を点けた。帰ってくるまでに匂いを消しておけばいいのだ。わざわざ河原まで行かなくてすんでラッキーだ。
そんなある日、芳夫の実家から電話が掛かってきた。義父が骨折して入院したというのだ。マリアは慌てて芳夫の携帯に電話した。しかし繋がらなかった。
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