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「そういえば電波が届かないって言ってたっけ。でも緊急事態だし」
マリアは芳夫の会社に電話をした。何とか取り次いでもらわなければ。
『は? 芳夫さんなら有給を取ってますが。安定期に入ったから旅行に行くと言ってましたが』
どういう事なのだ。自分は嘘をつかれたのだ。じゃあ一体芳夫は今何処に? 沸々と怒りが込み上げてきた。
幸い義父の怪我は大した事もなく、すぐに退院となった。しかし芳夫と連絡も取れない嫁という烙印を押されてしまった。
「ただいま。変わりはなかったですか?」
平然とした顔で芳夫は帰ってきた。このクソ真面目な顔の下にはどんな本性が隠されているのだろうか。マリアは不信感でいっぱいだった。
「お義父さん怪我して入院したのよ」
「え!?」
「それで連絡取ろうと会社へ電話したんだけど」
マリアの疑惑に満ちた瞳を見て芳夫は全てを察した。
「嘘をついた事は謝ります。ごめんなさい」
「誰と、何処へ行ってたんですか」
「マリアさんの知らない人なので言っても仕方ありません。それに個人情報なので……」
「いいから白状しなさい!」
普段おっとりしているマリアが感情を爆発させた姿を見て芳夫は腰を抜かした。そしてポツリポツリ話始めた。
「旦那さんが1週間出張になったから」
「旦那さんって……W不倫!? いつからなのよ」
「高校の時」
「何でその人と結婚しなかったの?」
「彼女はもう結婚してた」
「年上?」
「同級生のお母さんなんだ」
「……!」
若い子ならまだしも、親世代とは。悔しさを通り越して情けないマリアだった。
「だから結婚は諦めてたんです。でも両親は早く結婚しろ、孫の顔が見たいとしつこくて。そんな時天使様が現れた。これは運命だと受け入れる事にしたんです」
「じゃあ、私が好きだとか、愛してるっていうわけじゃないんですね」
「愛してます。マリアさんは神に選ばれた尊い女性です。そんな女性の夫にさせていただき光栄の至りです」
思い切りフラレた気がした。神の子を宿さなければ、自分には何ひとつ価値のない人間に思えた。
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