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誕生
それから、芳夫は相変わらず優しかった。でもマリアには空々しく感じられた。バレて開き直ったのか、時々芳夫は外泊するようになった。
「プハ〜」
マリアといえば、控えめにしていたタバコの本数が増えた。お菓子を食べる量も増えた。家事は今までに増してしなくなった。
「もう少し痩せないとお産の時大変ですよ」
定期検診で医者に注意された。
「それに……タバコ臭いですね。まさか吸ってませんよね? 旦那さんですか? 赤ちゃんの生育があまり良くありません。小さいです」
小さい方が産むのに楽でいいじゃないの。太ってお産が大変なら帝王切開しちゃえばいいじゃない。
医者の言葉はマリアに届かなかった。
ついにその時がきた。マリアは病院にいた。
立ち会いたいと言う芳夫の願いはあっさり却下し、マリアは1人手術室へ入った。既に太り過ぎによる妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病は言い渡されていた。自然分娩は無理なので帝王切開と決まっていた。手術はあっさりと終了した。
助産師が赤ちゃんを抱きマリアに見せた。
「可愛らしい男の子ですよ」
「……はあ」
あの日現れた天使のような、神々しくて美しい、何なら後光がさしている赤ちゃんを期待していた。しかしその赤ちゃんは思っていたよりも小さく、弱々しい泣き声しか出していなかった。自分がタバコを吸い続けたせいなのか。芳夫の浮気に精神的に悩んだせいなのか。マリアは初めて後悔した。
退院し、マリアは慣れないながら育児を始めた。芳夫も嬉々として協力してくれた。昼間は義母も買い物や洗濯をしてくれた。
男の子は「英介」と名付けられた。血の繋がりはないはずなのに、何故か英介は芳夫に良く似ていた。なので芳夫も義母も英介をとても可愛がった。マリアも負けてはいられないと英介の面倒を良くみた。稀に見るぐうたら女だったマリアが夜も寝ずに英介の世話をした。
英介は優しく親孝行な子供に育った。勉強はそこまで優秀ではないが、困らない程度はできた。産まれた時は弱々しかったが、大きな病気をする事なく健やかに成長した。
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