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「……それはほんと? 助けてくれるの?」
「まだ直接は名乗ってなかったね。僕の名は『白夜』。名前は知ってくれてたよね?」
白夜―― 自身の運命を変えたいと強く願った時、その男はやってくるという噂はよく聞く話だが、それ以上は謎めいていることもあり、信じられない人物の登場に驚いた表情で見つめ返すと、白夜は小さく息を吐きゆっくりと周辺を歩き始めた。
「どうやら僕のこと知ってくれているようだね」
「白夜……さん、どうしてこんなところに。運命を変えてくれるっていうのは本当なんですか? お願いします! 助けてください!」
「オフコース。たやすい願いさ。だって君のその強い想いがこの僕と引き合わせたのだから」
白夜が放ったその一言がスミレの心を照らす一筋の光となり、白夜に抱き着き泣きじゃくるのだが白夜はそれに応えることなく天を仰ぐ。
「ただ、僕がしていることは慈善活動じゃない。僕が君に奇跡の加護を与えるためにはひとつ、とても重要な条件があるんだ。
あ……ここじゃ少し場が悪い。そうだな、運命を本当に変えたいと願うならば一時間後にあの裏山においで。あそこでゆっくり話そう。
あそこは夕日が美しいからね。
さ、僕らは行こうか。アオネコちゃん?」
白夜の言葉を聞いてか、先ほどまで静かにスミレを眺めていたアオネコは白夜の首に長いその尾をそっと巻き付けひと鳴きすると、白夜の体が透けていった。
スミレが屋上に来てから短時間なはずなのに、白夜と出逢い彼の笑顔の下で放たれるプレッシャーに押されていたのか、何時間も滞在していたかのような錯覚を感じてた疲労感が溢れ出る。
しかし、白夜が指定した時間はわずか一時間後。
自身の未来の決断をし、その答えを持って約束の地へ向かわないといけない。
彼女に残された時間まであと少し。
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