プロローグ

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プロローグ

 桜が咲く頃になるといつも思い出す。  彼と初めて出会った日のことを。  色も、匂いも、音も……全てがあの日のものになる。  今年もまた、そんな季節が巡ってくる。  桜並木の散歩道で、私は立ち止まった。  青空に舞う桜の花びらを目で追う。  その先にいる人も、同じことを考えているのだろうか。  毎年同じことを思い、飲み込んできた。  私の横を、制服姿の中学生男女が楽しそうに笑いながら通り過ぎてゆく。  その姿に、ついつい自分たちの姿を重ねてしまう。  世界は……自分たちの周りは、幸せで彩られていると信じて疑わなかった幼かった自分たちを。 「麻奈美ー!!」  名前を呼ばれて声の方へ顔と意識を向ける。 「何してんの?置いてくよ」  そう言われ、私は声の主へと駆け寄る。  その人の隣に並び、私は覚悟を決めた。  今年こそは…… 「ねぇ、ずっと聞きたかったことがあるんだけど」
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