ローズクォーツの春・第3話

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ローズクォーツの春・第3話

 チャイムが鳴り終わって間もなくして、クラス担任の吉田|吉田吉田(よしだ) 清美清美(きよみ)先生がクラス名簿や配布物の紙を抱えて教室へやってきた。  2年生の時もクラス担任だった清美先生は、そのまま持ち上がりで3年生でもクラス担任になっていた。  若くて優しくて明るくて可愛い清美先生はクラス内はもちろん、他のクラスの子からも羨ましがられるほど人気だった。  麻奈美のクラスは3年2組。学年全体では4組まである。 「みんな、おはよう!全員揃ってるみたいね。今年は受験生だから大変なことも多いと思うけれど、何かあったら先生に相談してね。何でもいいから。遠慮しないで相談や質問して。一緒に乗り越えていきましょう」  そう言って清美先生はクラス全員の顔を見渡してニッコリと微笑んだ。  そこで1人の手が挙がった。クラスで1番のムードメーカーでもありリーダー的存在である山辺山辺(やまべ)(けん)だった。 「山辺くん、どうしたの?」 「小暮さんの隣の席って、誰が座るんですか?」  いきなり自分の名前を出されて、麻奈美は驚いて山辺くんを睨むように見つめた。  麻奈美の顔に山辺くんは一瞬怯んだような顔をしたけれど、すぐにいつもの楽しそうな顔に戻った。 「そうね。順番に説明しようと思っていたけど、みんな気になるわよね。彼をずっと廊下で待たせておくのも可哀想だし。それじゃあ先に紹介するわね」  そう言うと清美先生は教室の入り口を開け、廊下で待つ人へと声をかける。 「大丈夫、そんなに緊張しないで。さぁ、どうぞ」  清美先生の後に続いて1人の男子生徒が入ってくる。 「今日からみんなと一緒に過ごすことになった転校生、犀川犀川(さいかわ) 大晴大晴(たいせい)くん。さぁ、みんなに自己紹介して」  黒板に清美先生が彼の名前を書き終わると、犀川くんは顔をあげてクラス全体へと視線を動かした。  その顔を見て麻奈美の心臓が大きく跳ね上がった。こんなこと今までなかった。  犀川くんは元々の色だろう茶色がかった長めの髪。くっきり二重の大きな瞳。口角が上がった口元。ぽってりと艶めく色っぽい唇。  このクラスにはこんな子は居ない。垢抜けてる子って、こういう子のことなんだ。  同じ制服を着ている男子達とは全く違って見える。  麻奈美だけじゃないない。クラス全員が息を呑み、小さなざわめきが所々で起こった。 「はじめまして!犀川 大晴です。両親の仕事の都合で隣の花岡市、花岡台中学校から転校してきました。明るく騒がしい奴ってよく言われてました。このクラスで過ごすのは1年だけですが、みんなと仲良く楽しく過ごしていけたら嬉しいです!よろしくお願いしますっ!!」  犀川くんが頭を下げるとクラス全体から大きな拍手が起こった。  前の席の黒河さんが振り返って麻奈美に小声で告げる。 「すっごくカッコいいし、良い人そうだね」  その言葉に麻奈美は素直に頷いた。心から、本当にそう思った。 「席はそこね。隣は小暮 麻奈美さん。小暮さん、仲良くしてあげてね」 「は、はいっ!」  清美先生に突然そう言われ、半ば裏返った声で返事をしてしまう。  そんなことは気にしないように犀川くんが隣の席に座る。 「小暮さん、はじめまして。これからよろしくね」  そう言って犀川くんはニコッと微笑んだ。太陽が花開いたような眩しい笑顔だった。 「あ……小暮です。こちらこそ、よろしくお願いします」  何かが起こりそうな予感……これだったんだ。  いつまでもおさまらない胸の高鳴りを感じながら、麻奈美はそう思った。 『私……犀川くんのこと好き……になった?』  教壇では清美先生が今日の予定や今学期の大まかな予定を説明していたが、麻奈美の心は犀川くんへ向いたままだった。  チラリと横目で盗み見た犀川くんは、しっかり前を見つめ清美先生の話すことを聞いていた。  そんな麻奈美の視線に気づいたのか、不意に犀川くんがこちらを向いた。  目が合ったことを訝しむことなく犀川くんは麻奈美に向かって微笑み、麻奈美にだけ見えるように小さくピースサインをした。  麻奈美も微笑み返した……つもりだったが、ただ口元が引きつっただけのような気もした。  どうかどうか嫌われませんように。  そう願いながら、麻奈美は清美先生へと視線を向けた。
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