光る環状の物体

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光る環状の物体

 その時小学4年生だった俺は、夏休みを利用して母の実家に一人で遊びに来ていた。  酪農を営む母の実家は小高い山の中腹にポツンとある一軒家で、周囲は乳牛を飼育する牧草地と自給分の畑を除くと自然がほぼそのまま残っており、都会で生まれ育った俺にとっては、興味深いものばかりであった。  そんなことで、朝夕は搾乳の時は俺の相手をしてくれる人は誰もいなく一人で自然を相手に遊ぶことが多かったが、俺が暇を持て余すことは全く無かった。  その日の夕方も俺は一人で山沿いの道から森の中に入り、ザリガニ取りにせせらぎへと向かっていた。  そのせせらぎは子供の俺でも10分も掛からない処にあり、既に何度か行ったことのある場所なので、少しくらいいつも通る経路から外れても迷わない自信があった。  だが、その自身が過信となってしまう。  俺はあるモノに気を取られ、まんまとせせらぎに向かう途中の雑木林の中で迷子になってしまったのである。  そのあるモノとは雑木林の奥深くに見つけた淡く光る白い光で、過信していた俺はそれが気になってしまうと脇目も振らず、背の高い雑草をかき分け奥へ奥へと入って行ってしまったのである。  俺がやっとの思いでその光の傍らに着くと、それは帽子と同じくらいの環状の物で、例えると母の実家の座敷にある環型の蛍光灯に似たものであることが分かった。  ただ、それは手にすると重さが感じられない位に異様に軽く、電池も入っていないのに奇麗な光を放っているのである。  子供の俺はそれに何処か神々しさを感じ、自分の宝物にしようと背負っていたリュックサックに入れて持ち帰ることにした。  ところが、闇雲に雑木林の奥へと進んでしまったせいで、戻ろうとしても山沿いの道が一向に見つからない。  最初はその内に見つかるだろうと安易に考えていたものの、日が暮れて行くにつれ次第に俺の不安は募って行く。  俺は今にも泣きそうな状況に陥ってしまっていた。
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