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1、妥協してください
「妥協」
嫌な言葉だと思う。幸せになるためには「妥協」も必要だと自分は言われたのだと芽衣は感じた。
結婚相談所のカウンセラーは、この言葉は使わなかった。使わなかったけれど、意味は芽衣に伝わって来た。
長沢芽衣は33歳。中規模の機械部品メーカーに勤務する独身の会社員だ。社歴は12年目。年収は額面470万。手取りになると368万円になる。
芽衣の友人の殆どはすでに結婚したか、芽衣と同様「婚活」にやっきだ。風呂上がりに鏡に映った自分の姿を見ると芽衣も「もう女の子ではない自分」を認めざるを得ない。
芽衣は並の容姿、背の高さも並の162㎝。それなりに努力はして体型は保っている。なので若くは見られるらしい。周りから「30代には見えない」と言われる。だから、結婚相談所に登録した1年前には、直ぐ相手が見つかるだろうと思っていた。
芽衣が出したお相手の条件は、歳の差は3歳下から5歳上迄。安定した会社に勤めている事。学歴は自分と同じ大卒。年収は税込み600万円。
日本社会は、男女の賃金格差がある。芽衣と同じスキルを持つ男なら、このくらいは稼いでいて当たり前なのだ。
容姿は普通ならいい。背の高さは自分より高ければいい。165㎝あればいい。
至極妥当な条件を出したつもりだった。
なのにお見合い自体が中々成立しなかった。
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