わタマゴで合格

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「じゃあ、また明日学校でなー…バイバーイ👋」 家の近所の公園で友達と別れた。 道を歩いていると、白い羽が1つ落ちていた。近づいてしゃがんで、右の指でつまんで見ると、キラキラキラキラしていた。 (うわぁ…むっちゃキレイ) その羽を指でつまんだまま家へと歩いた。  しばらく歩くと道に白い羽がこんもりあった。近づいてしゃがんで、1つだけ指でつまんで見ると、キラキラキラキラしていた。 (うわぁ…むっちゃキレイ) 左手で被っている帽子をとって、道に置いて、両手で羽をすくって帽子にドンドン入れる。羽でいっぱいになった帽子を落とさないように、両手でしっかり持ってゆっくり家へと歩いた。 ーーーーー 「母ちゃん、ただいまー」 廊下の奥にいる母ちゃんに聞こえるように元気よく叫ぶ。 「サク、おかえりー」 奥から僕に負けず劣らずの大きな声で返事が返って くる。玄関の上り口に帽子をそっと置いて、靴を脱いでそのまま洗面所で手洗いうがいをする。 テーブルがあるリビングへ行かずそ〜ぅろ〜っと階段を上がる。自分の部屋に行って勉強机の上に帽子をそっと置いて部屋を出た。 「いつもは手洗いうがいしたらそのまま冷蔵庫のぞきに来んのに今日はどうしたん?」 リビングに行ったら母ちゃんが少し心配顔で僕に聞いてきた。 (あーそうやった…お腹空いて無意識にいっつも冷蔵庫のぞきに行っとったなぁ…うーん…なんて言お…) うーんと目を瞑って考えていると母ちゃん変な勘違いをしてくれた。 「なんかえらい顔しかめて、大丈夫か?…もしかして、お腹壊してたん?そやし、冷蔵庫のぞきに来んとトイレに直行してたんか?」 (ラッキー!のっかったれ〜!) 「うーん…そうやねん…ちょっとお腹壊しとった」 「そうなん!じゃあ、あんまり脂っこいもん食べへんほうがいいやんなぁ…今日の夜ご飯とんかつやねんけど…しかもケンザンの…高いの買ってきてんけど…残念!サクの消化に良さそうなおかず、なんか考えるわぁ…」 「ええっ!ケンザンの…と、ん、か、つ…食べたいけど…」 「あかんあかん、お腹壊してる時、脂っこいもんやめとかな。また今度買ってくるし…(いつになるか分からんけど😏)今日は辛抱しときな」 「う…うん…わ…分かった…(母ちゃんの変な勘違いにのらんかったらよかったー😭)」 「あっ、今日の夜ご飯、サクと母ちゃんの2人やしな。ちなみに父ちゃん飲み会、兄ちゃんは高校の部活のお友達の家でお呼ばれやってー」 「あ、そうなんや…」 それから1時間後、夜ご飯の時間になる。テーブルには僕のメインのおかずの湯豆腐と母ちゃんのメインの2枚のとんかつ、そして柔らかめの白ご飯と野菜たっぷり味噌汁と煮物が並ぶ…。僕は2枚のとんかつをジト目で見ながらご飯を食べた。 ーーーーー 「ケンザンのとんかつ…たべたかったわぁ…ババァ…むっちゃ嬉しそうに美味しそうにとんかつ2枚食べとった。ババァ明日食べ過ぎでお腹壊したらええねん…下したらええねん!!下せーーっ、下せーーーーーーーーーッ!!…あっ…いや、あかんあかん…作るの面倒くさいってみんなのご飯もおかゆになってまうわ…だぁーーーッ💦💦💦」 ベッドに寝っ転がり、のたうち回り、悪態をつき、頭を軽くかきむしり、再びのたうち回る…。目の端に映るもの…ふと勉強机の上に置いた帽子を見る。 (なんか違う?夜ご飯前?) 少し気になって、むくっと起き上がり、勉強机に近づいて帽子の中を見にいく。 (なんかキラキラ感が増しているような…?)  目を擦ってみる。子供用の目薬をさしてみる。でも、結局よく分からんかった。そして、階段下から母ちゃんの大きな声が響いてきた。  「サクー、サクーー、サクーーー!お風呂沸いたし、お風呂入りやーーー」 部屋から顔を出して階段下に向けていつもより大きな声で返事をした。 「母ちゃーーーん、わかったぁぁぁバァバァァァァァァァ!」 大きな声で返事して、音伸ばしのついでに“ババァ”って()ってちょっとスッキリした。ついでに帽子のキラキラ感も気のせいということで自分の中で終わらした。 階段を下りてリビングに着替えを取りに行ったら母ちゃんに突っ込まれた。「サク、あんたさっきの返事の中で“ババァ”って()ってへんかった?」って。僕は()った。「そんなん()ってへんで?母ちゃん年で耳悪なったんちゃう?」って。これでさらにスッキリした。 ーーーーー  お風呂から上がって、歯も磨いて、もういつでも寝れる状態で自分の部屋にいる。いつでも寝れる状態やったら寝たらいいのに、やっぱり帽子が気になって、勉強机のイスに座って帽子をぼーっと見ている。見ている間特に変わりなく…。ふと何かが頭の中をよぎる。 (何かするのを忘れている様な…忘れている様な…忘れて…あっ!!) 「明日の時間割すんの忘れてるわ!」 急に立ち上がって、勉強机の脇に掛けているランリュックを引っ張り上げ、デスクマットに挟んでるさ時間割表を見て明日の時間割合わせをする。筆箱の中を見て、鉛筆を鉛筆削りでピンピンにする。ランリュックの中身を整えて準備OK!帽子の横にランリュックを置いてイスに座る。 ー明日から僕が君の付き人するしな!まかしとき! 「ん?今なんか“明日から僕が君の付き人するしな!まかしとき!”って頭の中に声が響いてきたけど…?僕疲れてる?僕、頭、可笑しい?はよ寝たほうがいいかな?…うーん…明日のために…うん!はよ寝よ、はよ寝よ」 そう決めると、イスから立ち上がって、電気を豆球にしてベットの布団の中に潜る。 「すぅ~っ…すぅ~…すぅ~っ…すぅ~…ふごっ」 ーよし!サクちゃん、完璧に寝よったな!そしたら僕も明日のために準備しな…。あっ、そ〜ぅれぇ〜〜〜い! 勉強机の帽子の中がキラキラキラキラ輝き出した。 ーーーーー  目覚まし時計の音と共におでこをこんこんこんこん…ゴンゴンゴンゴンされる。いつもの通り寝ぼけながら目覚まし時計を止めて起き上がり、そして叫ぶ。 「母ちゃん!僕のおでこゴンゴンしんといてー!」 ーサクちゃん、おはよう!ゴンゴンしたん母ちゃんちゃう。僕や! 寝る前と同じ様に頭の中に声が響いてきた。 「えっ?」 僕は完全に目が覚める。そしてよく見ると、目の前に、直径3センチ位の金色の輪、輪の下にニワトリのタマゴがセットで浮いている。 僕は両手で両目を擦る。そして眼の前をもう1度見る。やっぱり輪とタマゴセットが浮いている。取りあえず見なかった…見えてない事にして、ベッドから起きて部屋を出て、いつも通り学校へ行く準備をするのに階段を下りた。 トイレに行って洗面所で顔を洗ってリビングへ行くと、先に朝ご飯を食べている父ちゃんと兄ちゃんがが「おはよう!お腹どうや?」「おはよう、サク。腹大丈夫か?」と心配して聞いてくれた。父ちゃんと兄ちゃんに「父ちゃん、兄ちゃん、おはよー。お腹大丈夫!絶好調や!ありがとう!」と返しながらテーブルにつくと、母ちゃんが横から朝ご飯を出してくれた。 「サク、おはよう。お腹の調子どうや?念のため柔らかめのご飯とお腹に優しいおかずにしといたけど」 「母ちゃん、おはよう。母ちゃん、お腹の調子完璧や!ブリブリや!特別メニューにしてくれてありがとう」 「ブリブリやったらあかんのとちゃうの…」そう呟いて心配そうな顔の母ちゃんを横に「いただきます」をしてご飯を食べだす。父ちゃんと兄ちゃんほぼ同時に「ごちそうさま」と言って立ち上がり、食べ終わった食器を各々重ねて流し台に持って行った。そして2人がリビングを出る時「サク、気をつけて小学校行ってきいや〜」といつも声を掛けてくれる。僕もいつも行儀悪いなぁと思いながらも食べながら「父ちゃん、兄ちゃんも〜」と返す。 それから僕も黙々と食べて「ごちそうさまでした!」と言いながら食器を重ねて流し台に持って行き、リビングにあるタンスから服を出してそのまま歯磨き&着替えに洗面所へ、トイレへ行き、再び自分の部屋に戻る…戻ると突きつけられる現実。 ーおっ!学校行く準備出来てるやん!カンペキ!あとはランリュック背負って時間になったら学校に行くだけやなぁ。 目の前に輪とタマゴセットが浮いていて、頭に響いてくる声。僕は頭を抱えこむ…そしてしゃがむ…そして唸る…深呼吸する…決意する…そして立ち上がる。 「なぁ、教えてほしいんやけど…輪とタマゴセットは一体なんなん?」 ーおっ!サクちゃん、やっと僕に興味を持ってくれた。いい質問や…『一体なんなん?』…その答えは昨日サクちゃんが帽子に入れてくれた羽や。一晩で羽からタマゴになってんでー。スゴイやろ! 僕は慌てて勉強机の帽子を見に行く。帽子の中を見ると羽が1つもなかった。すぐ輪とタマゴセットを見る。 ーこれから僕はサクちゃんの付き人するし、ヨロシク! 「いやいや…付き人って…それにタマゴの上の輪はなんなん?」 ー付き人は付き人やで?あんまり深く考えたらアカンわ。輪の事は今はそっとしといて…デリケートな問題やねん。 「何がデリケートやねん。輪投げの輪とちゃうの?」 ー決して輪投げの輪ではないわ…ほんで話途中やけど、もう家出なやばいんちゃう?遅刻すんで〜。 僕はハッとなって、ベッドの目覚まし時計を見る。ほんまにやばい、家出なあかん時間やった。僕は慌てて机の上のランリュックを背負って部屋を出て階段を下りる。 ー気をつけや〜。落ち着き、まだ間に合うし。こんな時にあれやけど、僕、サクちゃんにしか見えへんし。サクちゃん喋らんでも心の中で僕と喋れるし。 「それはよ言いな〜!」 靴を履きながら思わず大きな声で輪とタマゴセットに返す。 リビングから母ちゃんが玄関口に出てきていつものお見送りタイム。 「サク、何が『それはよ言いな〜』やねん。それより今日時間押しぎみやで。気をつけて行きや。焦って急いでケガしたらあかんで」 「母ちゃん、ありがとう!ほんなら行ってくる〜💦💦💨」 「気ぃつけてな😁」 これが輪とタマゴセット(のち、わタマゴと呼ぶ)と僕の始まり。わタマゴが言っていた様に付き人となって、段々母ちゃんの様な親友の様な存在となっていくわタマゴ。 夜中試験勉強してて、寝落ちしそうになった時とか朝起きられへんかった時、天井からわタマゴが僕の頭めがけて落ちてきて、目を覚ましてくれる。その時必ずわタマゴが僕に言う。 ー僕、サクちゃん起こす度にヒビ割れしそうやわ。 言われる度に僕は思う。 (ヒビ割れたことないやん!僕がタンコブ作るばっかりやん!) 出掛けるのに家を出る前、時々わタマゴが言う。 ー今雨降らへん空してるけど、きつく降るらしいしで。長い傘持っていき! 長い傘持って行ったら、雨一滴も降らず。いい天気で雨傘を日傘代わりに使う。 ー今日は絶対雨降らへんわ。 持って行かへんかったら、途中ゲリラ豪雨にあい、べしょ濡れになり翌日体調を崩す。 わタマゴが言う天気予報を信じるとロクなことがない。でもたまに当たるから難しい。 好きな子ができて告白するかどうするか悩んでいたら、わタマゴが僕に言う。 ー思ってるだけやったら前に進まへん。告白してまえ〜!恋愛はキラキラや〜!サクちゃんもキラキラしてき〜!でも、ぎらぎらしたらあかんで〜。 僕は好きな子ができる度に告白して振られて(この時はまだ落ち込んでいない)、必ず数日後に落ち込む。 僕が落ち込んでたらわタマゴが言う。 ー告白した時ぎらぎらしてたんちゃうん?ほんで振られたんちゃうー? ある時僕は言い返す。 「僕が好きになる人には必ず好きな人がいて、僕が告白した翌日に僕が好きやった人が好きな人に告白して両思いになるねん。ほんで2人で『両思いになりました。ありがとう』ってお礼言いに来てくれはんねん。巷で僕のことなんて言われてるか知ってる?」 ーサクちゃんがなんて言われてるんか、そんなん知らんっちゅーねん。なんて言われてんのか言ってみ〜? 売り言葉に買い言葉。 「僕な、巷で『恋の花エンジェルさん』って言われてんねん」 ー………へ、へ〜…エンジェルなぁ…。へ〜…そうなんや〜。 どこかひどく寂しそうにそう言うわタマゴ。そんなわタマゴを見てから僕は落ち込まないようにした。 ーーーーー 羽を見つけて持って帰った翌日、わタマゴと出会った時、僕は8歳。それから18年経って僕が26歳になってからそれは突然やってきた。 ーーーーー 朝、職場へ行くのに玄関で靴を履いていると、わタマゴが言う。 ーサクちゃん、今日な、サクちゃんに運命の出会いがあんねん。ほんでな、僕の輪でサクちゃんの手首と運命の人の手首と外れへんように、クルクルクルクルするしな! 「クルクルするって輪ゴムみたいにするってこと?わタマゴの輪、輪ゴムみたいに伸びんの?」 僕は靴を履いて玄関口に座る。 ーうん、そう、クルクルする。僕の輪、輪ゴム…ううん、パンツのゴムみたいにむーっちゃ伸びるで〜。 その答えに僕は一瞬ポカンとしてしまう。そして、笑いながら言う。 「わタマゴの輪は輪ゴムと違ってパンツのゴムか〜。そしたら硬いやつと違ってやらかいやつにしといてな〜」 わタマゴは胸を張って(?)()った。 ーや〜らかいやつな〜っ!ま〜かせとき〜っ! それがわタマゴとしゃべった最後になった。 ーーーーー 最寄りの駅に着いて、改札口に向かって歩いていると、前に歩いている学生さんが定期を落として気付かず歩いていく。僕は落とされた定期を屈んで拾おうと右手を伸ばすと、少しポチャッとしてよく日に焼けた左手が横からスッと伸びてきて、同時に定期に手を触れたその時…“クルクルックルクルッ”とやらかい感じのゴムの様な物が2人の手首に巻き付く。 “えっ?!”っと、お互い顔を見合わせつつも、定期を一緒に高い位置に持ち上げて、同時に叫ぶ。 「定期落とされましたよー!」 声が届いた様で学生さんが立ち止まり、ポケットの上を触って、定期がないことが分かって、定期を持ち上げている僕たちのいる所に慌てて戻って来た。 「定期拾って下さってありがとうございます」 ぺこぺこ頭を下げる学生さんに「イエイエ!どうぞ!」とお互い同時に言って、定期を一緒に差し出す。「助かりました!」と言って受け取って駆け足で改札に向かった学生さん。そして残された僕たちは…というと、とにかく通行する人の邪魔になるので、改札近くの端にあるイスまで移動した。どちらともなく「取りあえず一旦座って、お互い職場に遅刻の連絡しましょうか?」「そうですね」と職場に連絡をする。僕は左手でスマホをポケットから出し左手で操作して。もう1人は右肩からカバンを抜いて、イスの上に置き、カバン中から右手でスマホを取り出しそのまま操作する。 そして、お互い連絡が終わると自然と向き合った。 「えーっと…取りあえず自己紹介しときます?」と僕から切り出した。そして「そうですね…」と顔を少し赤くして応えてくれたもう1人。 「初めまして…でいいのかな…僕、サクと言います」 「初めまして…でいいんですよね?…あの…私サクラと言います」 ーそうやで〜!サクちゃんとサクラちゃん!「初めまして」でいいねんで〜!2人の出会いは『合格』やねんで〜!
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