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第七章 銀行への一歩 第75話 飛行訓練
ねながら思い出していたのは去年の夏の終わり。
背中のムズムズに耐えられないと、長老に話すチサ、どうも羽が出たがっているのじゃないか?という。
背中をかいてやるけど一向に出る気配がない。
永い眠りの後一時的に羽が出た、それは俺も見ているが、すぐに消えてしまった。
とにかくギルの指導を受けることになったチサ。
大丈夫なの?
鳥族の端くれ、何とかなるだろうという長老と並んで見守る。怪我だけしないように。
始めは、屋敷のそば。
んーと力むようにしているチサを見てはおかしくて笑っていた、でもなかなか出ないからこっちまで力んでしまうんだよな。
それがだんだん羽を出せるようになっていく。
出たら出たで今度は引っ込まなくなってしまった。
羽が思うようにゆうことを聞かなくて、台所で羽が広がったら大変だから、しばらく、出入り禁止になって、ふくれていた。
一か月もたつと少しだけど、飛べるようにもなった。だすことはできるが引っ込めるのは難しく、羽は開いたままとじることができなかったりして、俺は奴の背中の羽を縛ったりもした。
秋から冬、チーは何が何でも頑張るという。
どうしてそんなに頑張るの?
山へ連れて行ってもらえるというのだ。
山?
スーニャ山に氷を取りに行くというのだ。
いいなー。
鳥族限定、許可なく山に入ると打ち首。
まあいけるからか興奮していたチーの生まれ育った場所へ練習を兼ねていくことが決まった。
俺を連れて行ってくれるそうだ。どうも荷物の代わりらしい。まあ、いいや、その約束を今こうして果たしてもらっている。
俺はキックルの木の下にいた。
ここだけはお日様が入ってあったかい。真冬の格好をしてきたけど、この二人は薄着なんだよなー。
真っ暗中、たいまつの明かり頼りに奥に進むとチーに引っ張られやって来たのは洞穴の中にポツンとある大木だった。
三年、大きくなったな、とつぶやくチ―。
また引っ張られる。
どこに行くんだというと、少しだけ明るい壁に何かが彫られている。
「兄弟たちの身長、これが俺の、ねえ、はかってよ」
チーは木の棒を頭にあてた、どう?伸びてる?と聞きながら線を引く。
線が引けたのを見ると、チーはその横にガリガリと石で何かをかき始めた。
日付と名前と年、そして、「ここに住む」と書いたのは今いる場所。
鼻で笑う俺、まだ何かをかきながら、チーはつぶやく。
「もう、向こう(日本)のことは忘れたほうがいいのかもな。ただ、この知恵だけは、まだ使えるのであれば…。飢えで苦しむ人がいない世界、貧富の差のない世界、みんなが仲良く生きていける、そんな世界になればいい」と最後の方は泣きそうな声。
「向こうの世界でもできなかったのに、ここでできるのだろうか?」
「出きてるんじゃないか?」
チーは振り返るといつものようにニーっと笑った。
背中の羽は、あまり見せるものではなかった。
司教様によれば、羽のない翼は悪い意味を持つそうだ。
特に蝙蝠のような翼をもったものはめったにいなくて、奴隷のように使われることが多いときいていた。
黒というより灰色っぽい黒、まあ見た目は悪いかもなというと口をとがらし俺の方をにらんだ。
「でも羽あるよ?」
どれどれと見た。俺ものぞいてみた。
「本当だな、羽がある」
見たことのない羽の形、生え際というか、骨のようなそばにきれいな白っぽい産毛のような羽、チーの肌に似て白くて見分けがつかなかった。
「何で蝙蝠は嫌われるの?」
今、国が、世界が揺らいでいる。こんな時、夜飛べる者たちは、格好の餌食となる。
「餌?」
売り買いされたり、子供のうちに奴隷のようになったり、国の重要な機関を探るものとして貴族なんかに買われる子供もいるそうだ。
昼は飛べないの?
チーなら飛べるそうだ、なんで?見極めは目の位置だという。
ギルは前が見にくいそうだ。
ああ横に目があるからか。
蝙蝠たちも前にある、それに耳がいいから、間違えられるかもなと言われた。
チーはチェッといったけどすぐに話題をかえた。
上着を作ったと言って見せてくれた。
変なのというけど、羽だもん、いいじゃん。
カラスの羽、ガチョウの羽。彼らにも生え変わりの時期があるらしく、快く差し出してくれたそうですが、ほんとかな?ギルに言わせると、脅しにしか見えないと言っていた。カラスは脅えて羽をチーに差し出したって言うんだもん。
失礼ね。というチサだ。
ベストとマフラーに羽をいっぱいつけたんだ、これで裸で飛ばなくてもいいし寒くないよ。というけど、まあいいか。
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