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いつものように一行日記を開く。言葉が思いつかない。昼間のことを思い返すと涙が出てくる。いつものように羽ペンを握りしめて、いつものようにペン先を紙に落とす。
『もう何もかも嫌になった。みんな消えちゃえ!』
頭に浮かんだことを書こうとすると、試供品と書かれた紙が机から落ちた。裏には小さな字で使用説明が書いてある。
『このペンは貴方の望み(未来)を叶えます。肯定的な言葉でも否定的な言葉でも叶えてしまう天使の羽ペンです。使用の際には十分に気をつけてください』
急いで、それまでに書いた日記を読み返す。
『クロスワードの懸賞当たりますように』
『好きな人と旅行できたらいいな』
『もっと先輩、彼のこと知りたい』
『先輩とキスしてみたい……かも』
『初キスをした。ちょっと理想と違ったのが残念』
『先輩が大好き。好きすぎて、もうだめ』
肯定的な言葉でも、否定的な言葉でも、願いを叶える。最後に書いたのは、『先輩が大好き。好きすぎて、もうだめ』という日記。この日を境に、嫌なことが続いた。つまり、『もうだめ』という言葉が否定的に取られたということなのだろうか。相手――先輩への気持ちが強すぎて、自分の感情をうまく処理できない、苦し、辛いと受け取られてしまったのだろうか。もしそうなら、どうしたらいいのだろう。でももう終わってしまったこと。過去はこのペンでは変えられそうにない。現に格好書きで未来と書いてある。
天井を見上げた。どこにでもある白い天井。段々と視界がぼやけてくる。過去が変えられないなら、未来に希望を繋げるしかない。
わたしは天使の羽ペンを握り、日記に綴った。今度はちゃんと前向きな言葉を、丁寧に綴った。
了
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