試供品

3/9
前へ
/9ページ
次へ
 仕事で忙殺された数日を過ごす。家と会社を往復するだけの時間に腹立ちながらも仕方ないと諦める。このご時世、転職なんて非現実的だ。マンションのポストを習慣化されたように開け、中身を取り出す。ゴミ箱へ直行する広告ばかりなのに、何を期待してポストを開けるのだろう。要不要を選びながら、くだらないことを考える。ふと、厚手の封筒が目に入った。誰からだろうと裏返す――編集部。目に飛び込んできたのは、会社名よりも部署名だった。自分の会社はメーカーだから編集部なんて部署はない。部屋へ戻り封筒を開けた。  『当選、おめでとうございます』  すっかり忘れていた懸賞の当選を知らせる封筒だった。運の良い自分を褒めたくなる。思えば、懸賞に当たるなんて初めてかもしれない。当然、宝くじさえ当たったことない。今度買ってみようかな。つい欲が出る。  当たったは良いが、誰と行こう。ペアでご招待。思い当たる人がいない。親、それとも姉妹。悪くはないけど、やっぱり好きな人と行きたい。ただ彼氏はいない。それなのに欲が出たのか、妄想で一行日記に書いた。  『好きな人と旅行できたらいいな』
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加