試供品

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 人生初めてのキスは、先輩には悪いけど、あまりロマンチックではなかった。いつものようにカフェで食事をして、別れ際、いきなり抱き寄せられ、キスされた。わたしのファーストキス。それなのに舌をねじ込んできた先輩の胸を両手で跳ね除け距離を取る。先輩は目を見開いていた。まさか初めてじゃないだろ、みたいな目で見られている気がして落ち着かない。それに、わたしの目はチカチカして、心臓のドキドキは嬉しさからなのか、驚きなのかも自分で分からない。平静を装い、また明日と言って別れた。唇に指を這わせ、ため息を漏らす。歩きながら、キスってこんなものなのと自問自答する。答えは出ない。気を紛らわせたくて、別のことを考えたいのに、懸賞旅行のことが思い浮かんだ。先輩と付き合って直ぐに誘うには、下心が丸見えだと思って言い出せなかった。いまなら聞いても大丈夫かな。メッセンジャーで聞いてみると、直ぐに「いいよ」の返事が返ってきた。嬉しい返事のはずなのに、なんだか分からない気持ちがぐるぐる心の中にいる気がした。 『初キスをした。ちょっと理想と違ったのが残念』
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