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その後は、また映画談義に戻っていって、それからお互いの色んな話もして。
そのハンバーガー屋を出た頃には、もう夕方の四時を回っていた。
卓志は、見た目には地味メンで大人しそうで、女にモテるとは言い難い、いわゆる非リアの典型。でも丁寧で親切で、いわゆる“いいヤツ”だった。
何より、夢に向かって着実に努力してる人っていうのが、周りにはあまりいないタイプだったからやけに新鮮で……
そうすると顔面とノリと要領で生きてる淳のことが、急に薄っぺらく思えてきた。
それもあってか。
帰る頃には、やけに気分がスッキリしていて、淳に振られたって事実すら、どうでも良くなっていた。
「…ね、あのさ、これから時間空いてる?」
「え?」
別れ際、私は思い切って卓志に聞いた。
「あ、っとその、カラオケとか行かない?あの……時間空いてたらだけど」
何だかひどく緊張して、しどろもどろになってしまった。
と、彼は心底すまなさそうに謝った。
「ゴメン、これから塾のバイトあるから。
あの、違う日ならなんとか」
慌ててスケジュールを確認しようとする彼に、
「あ、いいのいいの。忘れて」
「ゴメン……」
その時の私は、少し傷ついた顔をしていたのかも知れない。
心底すまなさそうに謝る彼を見て、あたしはふと気がついた。
考えたらあたし、いつも誰かが向こうから来るのを待っていて、自分から人を誘ったことなんてなかった。
人に選ばれ、決めるのはあたし。
だって、自分から行って断られるなんてみっともないし、嫌だから。
顔面とファッションに、ノリに要領。あたしもあんま、淳のこと言えないか。
「じゃ、あたし方向あっちだから。バイト遅れないようにね」
「あ、ああ。じゃあ」
何となく気分が落ち込んだ。
彼に迷惑をかけちゃいけない、そんな気持ちでいっぱいだった。
そうだよ、あたしが居たんじゃ、人の良い彼はいつまでもここを動けない。アルバイトに遅れちゃ可哀想だ。
オロオロと、立ち止まったままでいる彼に踵を返すと、あたしは反対方向に歩き出す。
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