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でも、数歩進んだところで、あたしは立ち止まった。
やっぱり、このままサヨナラしたくない。
でも、もしまた断られたら?
きっとすごく恥ずかしいし、やっぱりあたしはダメな子なんだって、メンタル底辺まで落ちる。
ちらっと後ろを見ると、彼はまだ、さっきのままの姿でそこに立っていた。
えーい!別にいいじゃない。ちょっとカッコ悪いくらい。
さっきの映画みたいにさ、もう二度と会えないかもしれないんだよ。
一期一会って言葉もあるじゃん(確か)?
数メートル先の彼を振り返ると、あたしは思い切って声を張り上げた。
「「あのっ!」」
と、異口同音。
彼もまた、真っ赤な顔で声を張り上げている。
「ふ」
「「あはははははははっ」」
道ゆく人にジロジロ見られながら、あたし達はまた、声を合わせて笑った。
互いの方向に歩み寄る。
すうっ、と息を吸い込むと、あたしは思い切って尋ねた。
「あの、よかったら連絡先交換しようよ。
えっと、いい映画あったら…また行きたいし」
「あ、はい。僕も、カラオケにも行きたいと思ってたんで……あの、松本さんと」
スマートフォンを合わせて連絡先を交換すると、あたし達は改めて、互いに手を振って別れた。
夕暮れ時の紅い光を帯びた街の景色が、不思議と朝よりも鮮やかにみえた。
【おわり】
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