1人が本棚に入れています
本棚に追加
川
いつも通り、友達と帰っている夕方。
その日は、11月にしてはだいぶ寒く、雨も相まって気分が落ちる。
家に帰るのもなんだか億劫だ。って、それはいつも通りだが。
そんな事を思いながら、かれこれ数十分は彼と帰り道を歩いて…歩い、て。
いや、おかしくないか。俺の家は学校から近くて、数分で着く。
…そもそも、今日は。俺達は、今日を何回、繰り返した。
「なぁ、今日…ううん、ここ、最近。」
同じ日を_そう俺が言いかけた時、不意に彼は口を開く。
「今日、俺ん家で遊ばね?」
その時、俺は確信する。
嗚呼、口を出すべきじゃないんだな、と。
明らかな、静止。それ以上話すな。という圧。
少しの恐怖と無関心。
いいじゃないか、俺達は、今まで、仲良くやってた。
…それで。いいだろ、何があったって。
「おー、今から行くか?」
「…うん、そうしてくれると、助かるわ。」
そう微笑む彼は、悲しげで。
そんな彼の笑顔を、俺は見た事がある気がした。
記憶を探るため、昨日を思い出そうとしても、思い出せない。
…いや、思い出す必要なんて、無いのかもな。
「…」
急に、彼は立ち止まって俯く。
「…どうした?」
心配で、彼の名前を呼ぼうとする。
「…あ、れ。」
彼の名前は、何だった?
…わからない。思い、出せない。
そもそも、コイツは…誰だったか。
「…やっぱ、俺の我儘じゃ、お前の事は殺せないや。」
彼の頬に、雫が落ちる。
その雫はどんどん増えていき、辺りを水で覆う。
あまりの出来事に俺は少し目眩がして。
「戻ろうぜ、やっぱり。」
その言葉と同時に、その場に俺は倒れ込む。
はっ、と、目を覚ます。
頭が痛い。体が水で濡れていて、寒い。
…まだ、ぼぉ、っとする視界を擦る。
「目、覚ました?」
声の方向を見やる。まるで彼は普段通り。という風に立っていて。
でも、彼もずぶ濡れなのが現状を思い知らされる。
「…最悪な夢を見た。」
「そりゃ良かったよ。…後悔した?」
「全く。」
すると彼は徐に笑いだし、
「最高だよ、お前。」
そう言って、肩を押される。
「帰んな。何時でも、此処で待ってるから。ネットの存在で、良ければな。」
「帰りたくない。そう言ったら、どうすんの。」
そう言えば、彼は暫く悩んで
「…無理矢理にでも、帰さすよ。だからお前は今生きてる。な?」
嗚呼…こいつには、叶いそうも無い。
最初のコメントを投稿しよう!