純白の天使

1/12
前へ
/12ページ
次へ
「それじゃ、明日は寝坊しないでね。緊張しすぎないでよ」 『もちろんだよ、明日はぼくらの結婚式なんだから。きみこそ、ゆっくり休んでね』  ()()は幸せそうな笑みを浮かべながらアルバムのページをめくった。子供の頃の自分と若かりし頃の父親が写っている。 「それじゃあ、また明日」 『うん、おやすみ』 「おやすみなさい」  彼女はスマホの画面をタップし、ドレッサーに置き、ブラシで髪をとかした。  トントンと控えめにノックがされ、「入ってもいいか?」と父親に()かれ、理沙は「はい、どうぞ」と返事をした。  父親の(ふみ)()は神妙な顔をしており、分厚いアルバムを手にした状態で理沙の部屋へ入る。  鏡越しに理沙は父親に声を掛けた。 「どうしたの、パパ。随分と浮かない顔ね。娘の私が結婚するのに、しみったれた雰囲気で要られちゃ困るわ。私がいなくなるから(さび)しいの?」  文哉は顔をくしゃりと歪めた。アルバムを持っていない左手の人差し指で首の後ろを()いた。 「……そうかもな。親子ふたりで二十五年以上、一緒に暮らしてきたんだから」 「ちょっと平気? 私がいなくなっても三食、しっかり食べてよね。外食や中食ばかりじゃ栄養が偏るわ。食器洗いもしっかりね。スーツを脱ぎっぱなしにしないでよ、しわになるわ。それからハンカチは、しっかりアイロンをかけて。洗濯物は何日も溜め込むと汚れや臭いが落ちにくくなるわ。それから……」  まるで呪文を唱えるように理沙は、まくしたてる。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加