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時代に合わせてたら手遅れなの。半歩先を行く新しさが無くちゃ」
鏡の中でにっこりと微笑む妻とは裏腹に。
夫は不機嫌な顔でぼそっと呟く。
「オレはもう古いってコトだな」
「逃げないで」
赤い口紅は、遠慮無しに。きっぱりと言葉にする。
「今回のコトで。
あなたを非難するのも。あの女を憎むのも。
あの息子を否定出来るのも。私だけなのよ。
あなたに出来るのは、現実を直視することだけ。
さ、行くわよ」
最近はネットでも服のオーダーメイドが可能で。
写真を利用した採寸アプリもかなり精巧。
高レベルの技術だと聞く受注サイトを、いくつか調べていたら。
ある母子家庭に行き着いた。
そして色々と調べて行く内に、気付いてしまった。
その子供の父親は。どうやら自分の夫らしい。
最大の裏切りを知った時は。
怒りが湧き立ち。
泣き喚いて、夫が作った服を引きちぎったけれど。
興信所から貰った写真と動画を見ている内に。
だんだん興味が湧いてきた。
若い頃の。出会った頃の夫にそっくりだ。
顔立ちはもちろんだけど。
ちらりと生意気さが見える笑み。
服装に、自分のこだわりを主張しつつも。
上手く着こなして。
周りに威圧感や不快さを感じさせない。
だから周りからも、違和感なく受け入れられて。
そして偶然。
カメラの方向を睨む表情を写した1枚が。
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