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唐突な質問に、一度「え?」と聞き返してしまった。
もう一度星羅は「彼女、いたっけ?」と咀嚼しながら聞く。
「ああ、いないよ」
「そうなの? 西原君モテそうなのに」
「やめてよ……無理に褒めなくていいって」
「本当本当! 同期の中でだったら、私一番西原君がカッコイイと思ってるよ」
「星羅、やっぱり天使係の業務、発動中でしょ?」
笑いながら聞くと、星羅も同じように微笑みながら「あ、仕事モード出てた?」とノリ良く答えてくる。
心地良い空間。俺のような底辺社員にもフランクに接してくれるなんて……星羅が天使係に任命された、その意味を体感した気がする。
だからこそ、弱音を吐きたくなった。
仕事ができないというレッテルを貼られ、上司も冷ややかな態度……存在意義もないし、承認欲求だって満たされない。
星羅にこの鬱憤を、包み込んでほしい……縋るような想いが溢れてくる。
会話が途切れ、ビールを飲み干した後に……思わず溜息を漏らしてしまった。
「どうしたの? 溜息なんかついちゃって」
「俺、本当ダメだよな……」
「またそんな後ろ向きなことを。大丈夫だよ、まだまだこれからだって」
「俺もう三年目だよ? 二年以上やってまだ結果出してないの……俺くらいだよ」
ついこぼしてしまった弱音を、星羅は曇った表情で聞いてくれた。
ゆっくり同調するように「うん、うん」と頷きながら、最後まで聞いてくれる。
俺が話し終わると同時に、近くを通りがかった店員さんに「生二つ追加で」と注文した。
「西原君、まだ成功したことないでしょ?」
「……え?」
「西原君はまだ、成功した経験がないだけ。一度何かを達成したり、誰かに褒められたりしたらガラッと変わるよ。そういうものだって」
「そうかな……」
このタイミングで、生が二つ。
星羅は「今日は飲んで忘れよ!」と言って、ジョッキを傾けた。
つられるように、俺もビールを喉に通す。
「うん、良い飲みっぷり! 西原君、発散する場所がなかったんじゃない?」
「確かに……あまり飲み歩きはしないかな」
「でしょ? 会社の人ともコミュニケーション取れずに、加えてプライベートも楽しまないで抱えてたら、そりゃあ自信なんかつかないよ」
「そっか……俺、全てに委縮しちゃってたんだ」
「そうそう! 上手くいってる人は、もっとミスを恐れずに大胆にやってるよ!」
星羅の言葉が、ストンと腹の中に落ちてきた。
自分のダメなところと改善点が、はっきりとわかった気がする。
もっと大胆に……この際、殻を破って働くしかない。
「西原君、せっかくカッコイイのにもったいないよ! もっと自信を持って!」
その明るい笑顔に、救われる。
たとえお世辞だとしても、星羅に言われたら素直に嬉しい。
「星羅……こうやって男社員のモチベーションを守ってるんだな……」
今日三杯目のビールを飲み干してから、ボソッと口にした。
星羅は口に手を当てながら「だから、今日はモチベーション上げようとか関係ないって」と目尻を垂らして言った。
テーブルに、四杯目のビールが運ばれる。
もう弱音を吐くのはやめよう。
今日は目の前の星羅と一緒に、楽しくお酒を飲む。
こんな機会滅多にないんだ。
仕事のことは忘れて、星羅との時間を噛み締めるように、ビールを飲んだ。
……大体七杯目くらいを飲んだあたりから、記憶がなくなった。
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