管理部まもる課天使係

5/6
前へ
/6ページ
次へ
 ――あれ、ここは……。  頭が痛い。  体を起こして、目を擦った。  ん? ああ、俺の家だ。  記憶があんまりない。  枕元に置いていたスマホを見てみる。メッセージがニ件。  星羅からのメッセージが、連投で送られてきていた。   『久しぶりに西原君と飲めて楽しかったよ!』 『書類、しっかり預かったからね!』  星羅、律儀なやつだな……跳ねた髪を触りながら、一人ニヤける。  まあそれはいいとして、書類って何だっけ……全く思い出せない。 「あれ、今日って金曜日じゃ……」  頭が真っ白になった。  スマホのロック画面には、金曜日の文字が見える。  そして時刻は……。 「やばい、遅刻だ!」    全身の血の気が引く感覚。  しまった……星羅との飲み会だからって、つい飲み過ぎてしまった。  寝巻きにしているスウェットを脱いで、一度シャワーへ。  冷水のまま頭だけ濡らした。すぐにドライヤーで乾かす。  歯磨きも速攻で終わらせ、スーツ姿になった。  ここまで、約十分。  朝の準備時間、俺の中で最速記録だ。  二時間ほどの遅刻。  電車の中で、上司に腹痛のため遅れていると嘘の連絡をする。  返信はない。  怒っているのか……それとも呆れているのか。  もしくは俺なんかいなくてもいい存在だから……無視しているのか。  それでも、行かないと。  行って、誠心誠意謝罪して、気持ちを入れ替えて頑張りますって言わないと。  今度こそ一人前の営業マンとして、数字を上げるって言わないと。  星羅から言われた通り、自信を持つんだ。  会社に入って、自分のデスクに向かう。  すると、俺のデスクはなくなっていた。 「は?」  振り返ると上司が立っていた。 「西原、どうしてここにいるんだ?」 「ど、どういうことですか?」  上司が一枚の用紙を、俺の眼前に出す。 『営業三課への異動、及び減給に関する同意書』  ……何だこれ。  営業三課って……会社のお荷物と呼ばれている、窓際族が集まる部署じゃないか。  しかもこれ、俺のサインだ。  しっかり印まで押してある。 「これって……」  上司は一度鼻で笑った後に、自分の席に着いた。  座りながら「管理部の人から受け取ったんだ。良かったよ、会社がしっかり判断してくれて」と棘のある声で言う。  その時に、さっきの星羅のメッセージが頭に浮かんだ。 『書類、しっかり預かったからね!』  星羅のやつ……俺を嵌めたっていうのか?  いや、待てよ。  そもそも、こんな身勝手な判断、会社がしていいわけがない。  社員の給料を減らすなんてこと、あってはいけないんだ。  俺の考えていることがわかったのか、上司が「会社を訴えるなんて馬鹿なこと考えるなよ」と、パソコンを弄りながら言った。 「俺の勝手です! こんなこと、あってはならない!」 「あのさ、同意って意味知ってるか? お前はこの通告を受け入れたんだよ。きっちり印まで押してるだろ」 「でも、正常な判断ができない状態でしたし……こんなの詐欺ですよ!」  他の社員がいる中、俺は声を荒げた。  上司は俺との会話が面倒になったのか、耳をほじりながら「知らねーよ」と小声で返してきた。  もう、上司とでは埒があかない。  管理部のデスクまで向かう。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加