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ウチの会社の管理部って、どんな部門があるの? と聞かれたら……きっとこう答えるだろう。
『主には、お金の流れを管理する経理課や、ヒトを管理する人事課、あとは会社が関与する全ての法務業務を管理する法務課……とかかな』
そのどれもが、星の数ほどある一般企業の中でも、馴染み深い普遍的な部門だ。
だけどもう一つ、ウチの会社には変わった部門があった。
『管理部まもる課天使係』
ワンフロア化されているオフィスの中で、一番照明の当たりにくい端の方に島がある『まもる課』は、少数精鋭の社員で形成されている。
まもる課は簡単に言うと、社員を守る社員たちのことだ。
じゃあ何から守るか。これは多岐にわたる。
取引先からの無茶な要求、社内で起きたハラスメント、著しく問題を起こす無能社員……真面目に働いている社員を脅かす総合的な事柄から、日夜守ってくれている。
護身術に長けているガタイのいい男や、膨大な知識量を誇っている頭脳系社員……体も張れるし理詰めもできる……完璧なメンバーだ。
その中で、『天使係』と呼ばれている女性社員がいた。
名前は『横山 星羅』と言う。
星羅は入社三年目。つまり俺の同期だ。
星羅の役割は至ってシンプル。一言で表すと、モチベーターだ。
過労が重なり、身も心も疲弊している社員と食事に行き、癒しを与える……という仕事。
女性アイドルのように整った美しい顔、色白でツヤのある肌、愛嬌のある可愛らしい性格は、文字通り天使だった。
星羅のおかげで、特に男社員たちのモチベーションは向上し、売り上げにダイレクトに反映されている。
男社員のモチベーションを守っているのだ。
なくてはならない存在に、星羅は成り上がっていた。
星羅はそのキャラクターで、会社に売り上げをもたらすキーパーソン。
一方の俺は、いつまでたっても小さなミスを繰り返す、何の影響力もない平社員。
自分が自分で嫌になる。
ここが勝負所だと踏んでいた大事な競合プレゼンも落とすし、上司からの信頼も地に落ちている自信があった。
「はぁ……」
目をしょぼつかせながら、溜息をつく。
定時で帰っている先輩後輩を横目に、溜まりに溜まった事務作業をこなしていた。
事務処理を後回しにして、競合プレゼンに臨んだ……そのツケが回ってきたのだ。
この分だと、今日は終電帰り確定かな……。
「ねぇ、西原君」
俺の名前を呼ぶ声。
顔を上げると、そこには星羅の姿があった。
「あ、ああ……どうしたの?」
星羅が俺に話しかけてくることなんて、滅多にない。
気がつくと、社内には俺と星羅しかいなくなっていた。
心臓の音が星羅に聞こえていないか不安になるくらい、ドキドキしている。
ゆっくりと、星羅の口が開いた。
「この後、ご飯でも行かない?」
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