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「本当にあれで良かったんでしょうか? 天使さん、やっぱり強引すぎましたよ!」
人間界から天空界に戻る道中、悪魔は天使に詰め寄っていた。
あんなふうに適当にどちらかの選択肢を勧めて、とてもじゃないが仕事をまっとうしたとは思えない。悪魔は天使のぞんざいな仕事ぶりに納得がいかなかった。
「いいんだよ、あれぐらいで。どうせ先方の悩みに寄り添って優しい言葉なんかかけても、決断できないだろ」
「それは、そうかもしれないですけど……。でももう少し、宮部さんの話を聞いた方が」
「綺麗事だね。結局人間なんて、俺たちの言うことに従いもしない。みんな利己的なんだ。自分の奥底に眠っている気持ちに気づいていないふりをして、悩むのが大好きなんだ。答えはとっくに決まっている。今日だってそうだったろ。俺がその決まりきった答えを引き出してやっただけで。俺たちに存在意義なんてないんだよ」
「そんな。さすがにそこまでは」
悪魔は、どこか諦念が漂う天使の言葉に胸を震わされていた。
天使はどうして、自分たちの仕事に関してこうもおざなりな考え方をしてしまうのか。
どうしても疑問に思ってしまう。
「天使さんはなんで、そんなふうに考えるんですか」
悪魔は自分の声が思ったよりも低く、震えていることに気づいた。天使を責めたいわけじゃないのに、役目をまっとうしようとしている自分の心が天使の傲慢な態度を許せない。そんな自分の気持ちに気づいてしまった。
「なんででもいいだろ。お前には関係ない」
「関係あります! いつも一緒に仕事をするパートナーなんです! あなたがそんな態度だと、こちらの気持ちにも影響が出てしまいます」
珍しく声を荒げる悪魔に、天使は弾かれたように目を見開く。それからすぐにふっと目を細めて、「じゃあ」と応戦した。
「悪魔、お前はなぜそんなにも臆病なんだ? もっと悪魔らしく、意地悪な言葉で人間に、汚い選択肢でも勧めたらどうだ。俺はお前の方が、この仕事をまっとうしているように思えないけどな」
馬鹿にしたような天使の口調に、とうとう悪魔の中で何かが弾けた。
この仕事が自分に合っているなんて、自分でも思ったことはない。
むしろ自分には向いていないんじゃないかと常々考えている。
それでも、天魔様から信頼されて命じられた仕事には、最後まで向き合いたいと思っている。天使は、そんな自分の心を平気で踏み躙った。
沸々と湧き上がる怒りが、悪魔の中で爆発する。
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