傲慢な天使と臆病な悪魔

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「わ、私は! 私だって、私だって……本当は悪魔として振る舞いたいです。でもできないんですっ。昔、中学生の女の子が『教室でいじめが起きている。どうすればいいか分からない』って迷っていたんです。未熟者だった私はその時悪魔としての仕事をまっとうしようと、『見て見ぬふりをすればいい』って伝えました。あなたの言う、『意地悪な汚い選択肢』です。だけどその時の私は、悪魔として当然の選択を勧めたんだって自信満々でした。でもその子は……私の選択に従ったせいで、心を病んでしまったんです」  その当時、悪魔は今目の前にいる天使とは別の天使と一緒に仕事をしていた。その天使の方は誰がどう見ても天使らしく、優しい選択肢ばかり勧める子だった。  悪魔は自分の役割をわきまえた上で、中学生の女の子に「いじめを見て見ぬふりをしろ」と助言したのだ。天使はもちろん反対した。「先生に相談しましょう?」と、当たり前のように勧めたのだ。  だけど悪魔は天使の意見を振り切って、自分の意見を押し通した。そうすることが、自分の責務だと思っていたから。 「あの時すごく後悔しました。悪魔として振る舞うにしろ、もっと中学生の彼女の意見に耳を傾けるべきだったって。だから私がいま、悪魔に相応しくないというなら、この場で悪魔を降りますっ……! これ以上、私にできることはないですからっ」  一心不乱に天使に向かって抗議をした悪魔は、天空界へ向かっていくのとは逆に——人間界の方へ、降り始めた。 「お、おい! 何をしているんだ!」 「あなたの言う通り、私は臆病者です。天魔様に、悪魔としてもう顔向できませんっ」 「だからって役割を放棄しようってか?」 「あなたがそれをけしかけたんじゃないですか! 私のことはもう放っておいてください!」  悪魔は、自分がどれだけ感情的になってしまっているか分かっていた。けれど、これ以上天使と仕事を続けられない。行く当てもないまま、下界へと降りていく。  雲の下まで降りると、天使の視界からふっと悪魔が見えなくなった。
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