傲慢な天使と臆病な悪魔

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 人間が暮らしている地上からずっと遠い、雲の上に存在する「天空界(てんくうかい)」で、一人の天使と一人の悪魔が並んで座っていた。王座の椅子に鎮座するのは天魔様(てんまさま)。ここ天空界を司る王様のような存在だ。  天魔様は天使と悪魔を一瞥しながら、キリッとした口調で告げる。 「今日からお前たちに新しい仕事を与える。業務No.105。今回の仕事は『友人の恋人を好きになってしまった女性・宮部朱莉(みやべあかり)に、その相手から身を引くかどうかを決断させる』だ」  天使は「はあ」と頷き、悪魔は無言で天魔様を見つめ返していた。 「では、今日から一週間以内に決断させるように。早速いってらっしゃい」  天魔様が仕事を与える時はいつも気まぐれで、あっさりとしている。  言われた通りに仕事を遂行すべく、天使と悪魔が地上へと降りていく。   雲の隙間を通り抜け、人間界へと向かう最中、終始天使はため息ばかり吐いていた。 「どうしたの。そんなに憂鬱……?」  悪魔が恐る恐る天使に尋ねる。天使はキッと悪魔を睨みつけた。 「まーた、しょうもない仕事頼まれたと思ってな。どうせ人間たちは俺たちの話なんて冗談半分にしか聞かないんだぜ?」  乱暴な物言いなのは、天使の元々の性格だと分かっている。でも、天使の人を小馬鹿にしたような口調にはどうしても慣れない。 「そうかもしれないけど……でも、私たちの助言を待っている人はたくさんいると思うわ。私も、自信はないけれど……」  悪魔は臆病者だった。自分の意見をしっかり持っているものの、他人に意見を押し付けることに苦手意識がある。天使もそんな悪魔の性質を知っていて、「お前、悪魔に全然向いてないよな」と軽口を叩いた。 「あ、もうすぐ人間界に着くぞ。ちゃちゃっと仕事済ませてしまおうぜ」 「う、うん」  あくまでもやっつけ仕事として今回の業務を片付けてしまおうとしている天使に、悪魔はそっとついていくのだった。
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