悪役令嬢は推しと友達になりたい

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悪役令嬢は推しと友達になりたい

 階段から落ちて、私は死んだ。  あっ、死んだな。  そう思っていたのに、なぜか再び目が覚めた。しかし、そこにいたのはお医者さんではなく、組チョ……それはもう、極悪人みたいな強面のおじさんだった。  その人が、私の顔面スレスレまで顔を寄せて来て、にんまり笑ったので、正直『殺される!』と思ったけど。次の瞬間、おじさんは赤ちゃん言葉で、私にしゃべり始めたのだった。その反シャ……もとい、悪役伯爵が私の父親だった。  私はロベリア・デ・カタルシス。  死んですぐ、生まれ変わったらしい。  でもそこは、乙女ゲーム『マジカル・デイズ・スカーレット』、通称『マジですか』の世界で。  私はヒロインのライバルである悪役令嬢だった。  家の権力を傘に、ヒロインをいじめまくって、学校から追放しようとしたり、挙げ句には、亡きものにしようと画策したりする、極悪お嬢様。  大好きなゲームだったけど、待ち構えていたのは、最後はヒロインに『ざまぁ』されて終わるテンプレ人生。    私は、そんなのイヤ。まじめに、普通に生きていく。  死にたくないのは、もちろんだけど。  ロベリアは伯爵家のお嬢様だし、顔もそこまで悪くない。キツイつり目とそばかすは、ご愛嬌。  何より、魔法が物を言う世界で、激レアな聖属性の持ち主。  魔法学校(ここ)で優秀な成績を修めることができれば、魔導院に入れる。ゆくゆくは宮廷魔導士だって夢じゃない。  ブラック職場も低賃金も、もうイヤ。目指せ、上級国民!  それが、底辺(わたし)の目標。  それと、もう一つ。  攻略対象で、私の最推し、ジョシュアと仲良くなること。せっかく、クラスメイトになれたんだんだから、せめて……せめて、友だちになりたい!  ヒロインとの邪魔はしないと誓う。だから、友だちだけは、許してほしい!   この日。  私は朝一番に学校に来て、ドキドキしながら、ジョシュアを待っていた。彼が教室に入って来るのと同時に席を立って、声をかける。 「ジョシュア、おはよう」 「ああ。おはよう、ロベリア」 「この間は、手伝ってくれて、ありがとう。とても助かりましたわ」 「なんてことないよ」  はにかむジョシュアに、私は箱を差し出す。 「これ、お礼ですわ。パティスリー・ゴールデンの、」 「えっ! もしかして、フリアン?」  そう。箱の中身は、ジョシュアの大好物である焼き菓子。もちろん、ゲームで得た知識だけど。 「ありがとう、ロベリア!」  ジョシュアの顔が、パァっと笑顔になった。  ──あぁ、幸せっ!  じんわりと喜びを噛みしめる。  お父様のしつこい誘いを断って、開店三時間前から、並んだかいがあったというもの。  早速、ジョシュアに手渡そうとした、その矢先のこと。  体の右側によろめくほどの、それはもう、強い衝撃があった。 「きゃあ! ごめんなさぁい!」  ぶつかってきたのは、ヒロインのスカーレットだった。 「大丈夫? ロベリア。怪我は、なぁい?」  スカーレットが心配そうな顔つきで、体を触ってきた。しかも、ベタベタと触りまくる。 「大丈夫よ」    私は笑顔で答えた。でも、それどころじゃない。内心は焦っていた。ぶつかった衝撃で、あろうことか、私はお菓子の箱を落としてしまったのだ。それを一刻も早く拾いたいのに。 「大丈夫? 痛くなかった? 本当に大丈夫?」  スカーレットは、しつこかった。ジョシュアの前では、邪険に振り払うこともできず、私は何とか笑顔で「大丈夫」と言い続ける。  その時だった。  スカーレットの足が、「グシャっ」と、箱を踏みつけた。  何が起こったのか。  私には、一瞬、理解できなかった。
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