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話しながらどんどん気分が落ちてきて、うつむいていた顔ももっと下がってきて、冴香がどんな顔をしているのかも確認できない。楽しいはずの親友とのデートをこんな話で憂鬱にしたくなかったと思ってももう遅い。
「何それ……」
低い声でそう呟く冴香に、ぱ、と顔を上げる。
「恋は景品じゃないし、何その気持ち悪い遊び……! 大学に遊びに来てるの、その人たち、ほんと気持ち悪い、無理すぎる……」
「はは……女の子も、私がちやほやされて調子乗ってる、って思ってるみたいで全然話しかけてくれないし、遠巻きだし……」
「サイアク!」
我がことのように憤ってくれる冴香にほっとする。私は、こうして味方になってくれる同性の友達を見つけることすら難しいのだ。
冴香とは小学校からの幼馴染で、当初は冴香も、私が男の子にちやほやされていると思って敵意を向けて来ていた。けれど五年生のある日、私が誰もいない教室の隅で教頭先生に体を触られそうになっているところに偶然やってきて、その時の私の絶望に染まった顔と教頭先生の下卑た気持ち悪い顔に、考えを改めたそうだ。
五年生の女の子の要領を得ない主張は通らず、教頭先生はうまいこと言い逃れてお咎めなしだったことに本気で怒った冴香は、それ以来私の周りをよくよく観察しては男性(それは同級生に限らず、周囲の大人も少し年上の男の子たちも)から遠ざけてくれるようになった。
女性の人権やそれに近しい言葉が概念として認識されるようになって久しいのに、いまだに私のような女は「男にちやほやされて調子に乗っている」とか「ほんとうに嫌なら自衛すれば」と言った心無い言葉を男女問わずぶつけられる。
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