幼気な花

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「ご不快な思いをさせてしまい、大変申し訳ありません……!」 「あ、えと……」 「自分に笑いかけてくれたから可能性があると思うとか訳の分からないことを言っていて……本当に……申し訳ありません……!」  そういえば、オーダーを取りに来たのも品物を持ってきたのも、あの店員だったかもしれない。でも、注文のときも受け取りのときも、ふつうに人並みに対応していた記憶しかないのだが……。  冴香もまったく同じことを考えたのだろう、ぶるりと身震いして言い放つ。 「キモすぎ」  救いは、この女性店員がまともだったことだけだ。本当に気持ち悪い。  レシートは気味が悪いので店で処分してほしいと伝えて置いてきた。女性店員(店長だったそうだ)はひたすら私に頭を下げて謝罪をしてくれて、クーポンをくれようとしたけど私より先に冴香が「こういうことをする店員さんがいる場所には二度と来たくないので」ときっぱり断ってくれた。店長には申し訳ないけど一言一句同意なので、クーポンは受け取らなかった。  帰り道、すっかり意気消沈して悲しくなっていると、私の代わりにずっと怒ってくれていた冴香は怒りが収まらないようで、私の肩を抱き寄せるようにしながら大きなため息をついた。 「なんかさ、小さい頃は、かわいい顔とかカッコイイ顔って、それだけで得だと思ってたし恋のことだって人生勝ち組でいいなって思ってた」 「……」 「でも、全然そんなわけないよね。ふつうに対応しただけであんなふうにキモイことされて、そこにいるだけで大騒ぎされて、私だったら今ごろもう気が狂ってると思う」 「……」 「恋。何かあったらすぐ私に言うんだよ! 一個も我慢しちゃだめ! 恋ができないなら私が代わりに、相手を地獄に突き落とす!」  ただ友達と出かけて遊びたかっただけなのにこんな最悪な空気にしてしまうのに、冴香は私をこんなふうに大切にしてくれる。  それが嬉しくて、涙目でありがとうと抱きつけば、そう身長の変わらない冴香は優しく頭を撫でてくれて、抱きしめ返してくれた。 「いつでも、なんでもいいから私を頼ってよね!」 「うん、ありがとう」  冴香は私の心の支えだけれど、それでも彼女は私の顔がなければこうはならなかった。それが、すごく歪んだ嫌な考えだとは分かっているけれど。  私はずっとずっと、顔のない自分でいることを望んでいる。 ●
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