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天使との出会い
「貴重な日曜の昼間になんだってんだ全く…」
結婚相談所からの帰り道に、人生さも楽しそうな家族連れやカップルが、視界の両端を通り過ぎる。
賑わう繁華街を抜け、自宅付近の閑散とした路地に入るなり俺は、独り言も憚らず声に出していた。
「もう婚活やめよっかな」
面談するからと担当女史に呼び出され出向いたら、「もっとやる気を出して!」と説教されて終わった。
「はぁ。未来が見えない…」
「私が未来を見せてあげる!」
それはあまりに唐突なオファーだった。
右斜め下からの甲高い声が耳をつんざき、俺はヒヤッとして歩みを止めた。
「そこの独身貴族! 私に任せて!」
俺が話しかけられているかと、不審に思いながら声の出所を振り向くと、そこには──
「占い師?」
真っ白なローブを纏った、猫背で小ぶりな人物が、平机の上の水晶玉に手をかざしている。
違和感が半端ない。
このテの占い師の衣装は通常、紫じゃないか? フードを目深に被っていて顔は不明だが、人物の体格といい声音といい、明らかに子供だ。
34歳独身男は、子供に迂闊に近付いてはならない。このご時世すぐに事案となってしまう。
「占い師ごっこするならこんな処じゃなくてさ…」
俺はあしらうように軽く手を振って、そのまま足早に立ち去ろうとした、が。
「ふぅん? 学生の頃はそれなりに女性とお付き合いもできたのに、就職してからはSEの仕事が忙しくてご縁がなかったの」
スラスラ唱えられたのは、俺の確かな個人情報。
「なんで…」
「そして30歳の時紹介してもらった女性と、久しぶりにうまくいってた。でも交際3年、そろそろ結婚してもいいかなって思った頃、密かに浮気していた彼女はその相手と授かり婚! 傷心のまま結婚相談所に入会かぁ…」
なぜ俺の恋愛遍歴が見えているんだ。その水晶玉は魔具なのか!?
俺はそれにかじりつきかけたが、子供はやはり危険物だ。
反発する磁石のように身を捩ってみせた。
「あなたが縁遠いのは、結ばれるべき相手と出会えてないからよ」
フードの裾から一度覗く、少女のつぶらな瞳がキラリと輝いた。
「結ばれるべき相手?」
「人は生まれた時からたった一人の運命の人と、赤い糸で結ばれている。その相手と出会ってしまえばもう、運命には抗えず惹かれ合い、永遠を誓わずにはいられない」
「赤い糸…?」
与太話にも程がある。が、俺のことを完璧に言い当ててもいるし…。
ソワソワして捨て置けない俺は、この怪しい占い師の術中に嵌ってしまったのか。
「心配ご無用。私が出会わせてあげるっ」
俺の戸惑いの隙を突き、彼女は机の前へ軽やかに飛び出てきた。
そしてバッとローブを脱ぎ捨て、
「何を隠そう、私は天使だから!」
正体を現した少女は、白いワンピースがよく似合い──
艶めく黒髪に、透き通る白い肌を持ち、その頬は林檎のように滑らかで…。何より驚くべし、その背には幻想世界の存在に遜色ない、美しい翼を生やしているのだった。
「天使だから! …って。は??」
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